※2010クリスマス さすこじゅverです。






















「今年のプレゼントは、俺だ」

恋人にそう言われたとき、佐助だってほんとうはもっと喜びたかったのだ。
ベッドの上に俯せに横たわり、佐助はほう、と息を吐いた。気怠い感触が全身に沈殿していて、 このままぐっすりと眠ることも、とても簡単にできそうだった。でもそうもいかない。佐助はか すかに聞こえるシャワーの音に耳を澄ませた。さすがに恋人がシャワールームに居る間に眠りこ けるのはよくないだろう。普通の日ならともかく、選りに選って今日はまずい。
だって今日は、クリスマスイブなのだ。
佐助は再び、さっきよりも深い息を吐く。
ころりと寝返りを打つと、毛布がよれてつめたい空気が這入り込んできた。ふるりと体が震える。 佐助はもぞもぞと腕だけをベッドから出して、床に散らばったパジャマを掴み、毛布に引きずり 込んだ。毛布の中で器用にそれを着込んでいると、後ろから呆れたような声がかけられた。

「おまえは芋虫か」

ひょこりと顔を出し、振り返ってみると小十郎がタオルを頭に乗せてこちらを睨んでいる。

「出たの」
「あァ。おまえはどうする」
「俺はいいや」
「ふうん」

小十郎はぺたぺたと足音を立てながらベッドまで歩み寄り、腰を下ろす。
いつもはきれいに撫でつけられている黒髪が、はらはらと額に落ちかかっているのを佐助はぼん やりと眺めた。パジャマといういかにも間の抜けたルームウェアが嫌いな佐助の恋人は、寝ると きにも黒いロングティーシャツを着ている。濡れた襟足がそのティーシャツの襟元を濃く濡らし ているのが見える。佐助は腹の下あたりにうっすらと熱が渦巻き出すのを感じたけれども、瞬き をしてそれをごまかした。
小十郎の首にはもう、キスマークがついている。
ついさっきまで、心ゆくまで恋人同士のクリスマスイブを楽しんだばかりなのだ。

「―――でもなあ」

どうしても釈然としない。
佐助のつぶやきに、小十郎が不思議そうに首を傾げた。

「どうした」
「なんかこう、―――もうちょっと、ちがうはずじゃない?」
「何が」
「や、なんていうか、あんたの今年のクリスマスプレゼントがさあ」
「なんだ、不満か?」

心外だ、というように小十郎が眉をひそめる。
佐助はううん、と唸ってから、もぞもぞと毛布の中を移動し、小十郎の隣から再び顔を出した。

「いや、ありがたく頂きましたけどね。なんていうか、俺思うんですけど、プレゼントってそ の中身も大事だけど、それと同じくらいラッピングも大事なんじゃないかな?」

恋人へのプレゼントを、佐助はとても一生懸命考えた。
洋服は趣味がちがうし、小十郎は小物を持つような男ではないし、彼は欲しいものなら大抵自分 で買ってしまう。だからほんとうに喜んでもらえるものを考えるのはとても骨が折れた。佐助は 一月近く悩み続けて、最新式のデジタルカメラをプレゼントに選んだ。一眼レフ並にいろいろな 応用が効くというそれを、小十郎は案の定大喜びで受け取った。これで政宗様の写真がもっと充 実する、と言って、だ。佐助はそれを聞かなかったことにした。ともあれ、喜んでもらえたこと は事実だ。多少そのベクトルが不快ではあるにせよ。
自分は恋人としてとても誠実だった、と佐助は自信を持って言える。
そしてそういう誠実さというのが、こと恋人関係においては非常に大きなウェイトを占めるので はないだろうか。佐助は思う。一瞬で決めたデジタルカメラと、一月考えて決めたデジタルカメ ラは、受け取る物質は同じでも、その中身はまったく異なる意味を持つはずだ。
すくなくとも佐助にとってはちがう。
ラッピングというのは、つまりそういうことだ。

「つまりどういうことだって?」

佐助の言葉をうっとうしげに遮り、小十郎がタオルをするりと首にかけた。

「だからさあ、―――あんたの言い方だとなんか、プレゼントがラッピングもされずにそのまま ごろりとテーブルの上に置いてある感じがするっつうか。ああそういえば今日クリスマスイブだ ったっけか、でもプレゼントとか用意すんの忘れてたわ、まあいいか、プレゼントは俺とか言っ とけばごまかせンだろ、みたいな。そういう感じがする」
「面倒臭ェ野郎だな」
「俺様は面倒臭いンです。そんなこと知ってンでしょ」

小十郎みたいに佐助の世界はシンプルにはできていない。
小十郎はごしごしと髪をタオルで掻き毟っている。濡れていると彼の髪の毛はすこしウェーブが かかっているのだということが解る。あれに指を絡めたいなあ、と佐助はぼんやりと思った。

「結局どうすりゃよかったんだ」
「―――照れたりしてほしかった」
「はあ」
「顔を赤らめたり、言いよどんだりしてほしかったンだよ。それだけで俺は、ああ片倉さんたら いろいろ考えた末に決めたンだなあかわいいなあ嬉しいなあって思えて、このうえなく幸せな イブを過ごすことが出来たはずだったわけ。いやね、もちろんプレゼント自体は嬉しかったン だよ。でもそれをもっと素敵に彩るために、やっぱりラッピングって必要ですよ」
「ふうん」

小十郎は興味がなさそうに鼻を鳴らし、ベッドに乗り上げてきた。

「そんなものか」
「そんなもんです」
「よく解らんな」

もぞもぞと小十郎は毛布を被りながら、佐助をちらりと見た。
佐助はぱちぱちと瞬きをして、首を傾げる。
重い口よりよほど雄弁な彼の目が、なにか意味ありげないろを含んでいたので、起き上が って小十郎の横に潜り込み、なに、と聞くと、うん、とあいまいに小十郎が頷かれる。
そんなものか。
小十郎はまたそう言った。

「実は俺も驚いていてな」
「何に?」
「おまえがこんなにあっさりと終わらせるとは思わなかった」
「―――うん?」

よく見ると小十郎は珍しくにやにやと笑みを浮かべていた。
切れ長の目も、こちらを馬鹿にしたようにきゅっと細くなっている。

「てっきり普段やらせろやらせろと煩いことを、ぜんぶ要求してきやがるとばかり思っていた」
「え」
「欲が薄いなァ」

意外だ。
小十郎はそう言って、枕に顔を埋めた。

「まァ、貰ったものをどう使おうと、それはおまえさんの勝手だからな。俺が口を出す問題でもねェな」
「え、ちょっと」
「おやすみ」

切れ長の目が閉じられる。
佐助は慌てて、厚い肩を揺さぶった。

「ちょっと待った」
「なんだ煩ェ。寝る」
「え、さっきのもう一回言えよ。なんだって?」
「うるせェ、―――」
「片倉さん」

うっとうしげに目を開いた小十郎が、仰向けに転がり、寝たまま佐助を見上げる。

「だからな」
「うん」

佐助は思わず真っ直ぐに背を伸ばして頷いた。
小十郎はそれを見て、たのしげにくつくつと肩を揺らす。

「折角のクリスマスだろう」
「うん」
「なのにおまえはあんなノーマルなセックス一回で、満足してんのかと、俺はそう言っているんだが」

どうだ?
首を傾げて問いかけられる。佐助はこくりと喉を鳴らした。
小十郎の口元には解りにくいけれども、確かに笑みのようなものが浮かんでいる。それは濡れた ほつれ髪とも相まって、とんでもなくいやらしい表情に見えた。
かたくらさん、と佐助は小十郎の名前を呼んで、彼の顔の横に手を突く。
小十郎は覆い被さってきた佐助の髪に手を伸ばし、くるくると赤毛を指に絡めて遊んでいる。

「何してもいいの?」
「ある程度はな」
「え、じゃあ足の指とか、舐めても怒らない?」
「べつに」
「後ろからしてもいい?」
「しょうがねェな」
「―――くわえてくれたりする?」
「なら風呂入れよ」
「え、え、じゃあ、」
「おい」

ぐい、と体を引き寄せられる。
佐助は丸い目をさらにまんまるに丸めた。唇が触れる寸前の場所に、小十郎の顔がある。ひゅ、 と息を飲み込む音が聞こえたのか、小十郎はまた満足げに口角を持ち上げた。

「そんなことは、終わってから確認すりゃァ済む話だろう」

ちゅ、と音をたててキスをされる。
くらり、と甘ったるい眩暈が佐助を襲う。一度離れた唇に再び噛み付くと、小十郎は素直に佐 助の首に腕を回してくれた。ティーシャツの中に手を差し込むと、小十郎の体が震え出したの で、何かと見下ろしてみれば体を揺らして笑っている。
唇を離すと、小十郎は佐助のほおを手の甲で軽く叩いた。

「ラッピングはどうした」
「―――よく考えたらそんなもんどうせ剥がすよね」
「なるほど」

確かに、と小十郎は笑いながら佐助のパジャマのボタンを外し出す。
余裕ぶったその態度はとても腹が立ったけれども、肌に触れるつめたい指の感触があんまりき もちいいので、佐助は意地を張ることを早々に諦めて、ベッドの上に未包装で放り出された恋 からのプレゼントを改めて堪能することにした。
















106:誘 う



「クリスマスプレゼントはア・タ・シ☆」さすこじゅverです。過ぎてるとか知ったこっちゃない。
68がこじゅさすverです。



2010/12/28



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