かわいくないところが、まったくどうしてこんなにかわいいんだろうか。 星の数ほど男はあれど意地を張るのは主ばかり 4 秘部に指を差し込んで、くっきりと浮き出た腰骨を舌で撫で回してやると、小十郎の広い背中が反り返るのが 視界に入ってきた。空いた手で骨の内側を抉り、秘部に入れ込んだ指は入り口付近でぐるりと掻き混ぜてやる。 「あ、あ、ッ、ぁ」 悲鳴のようにか細い声を小十郎が上げる。 佐助は口先だけで笑って、小十郎の足を抱え込み、自分の肩に膝の裏を乗せる。肩だけが板間に付く形になっ た小十郎が苦しそうに息を吐き、喉を晒して不満げに呻いた。が、佐助は構わず、更に足を自分の背中のほう へと送らせて、目の前にきた溶けきった小十郎の秘部に顔を埋める。 ねっとりと熱を持った秘部は、舌が触れるとひくひくと収縮した。 「うぁ、―――止せ、あほ、」 「阿呆はないでしょ、阿呆は。とろとろで、こんなに気持ちよさそうなのに」 「ひ、」 とろけて濡れた場所を拭うように舐めると、小十郎が息を飲んで罵る言葉を止めた。 「ぃ、あぁ、う。くるし、い。よせ、やだ、ァ、あ」 ほとんど逆さづりの体勢で、頭に血が上るのか、顔は真っ赤になって眦に涙まで浮かんでいる。 佐助はしかし構わないで、既にとろけた秘部を更にとろけさせることに専念した。縋る物を探すように、赤い 顔で息を荒げながら手を彷徨わせる小十郎を見下ろし、ざまあ見ろと思う。ひとを無闇に煽るからこういうこ とになる。陰核を殊更に舌で突くと、小十郎は軽く達したようで、背負っている足がひくりと大きく跳ねた。 「はッ―――あ、うんッ、ん」 だらりと力を無くす足をするすると撫でながら、今度は舌を撫でるだけでなく、秘部へと差し入れる。小十郎 は目元をてのひらで覆って、首を左右に振っている。よせと掠れた声で繰り返している。佐助はもちろんそん な言葉を聞くつもりはない。 もっとやさしく抱いてやるつもりだった。 小十郎のおかげで台無しだ。 半ばは憤りながら佐助は小十郎の体を撫で回す。所狭しと傷が付き、何処を触るにしても何かに引っかかるざ らついた凹凸のある肌は、そのくせ何故だか佐助を興奮させる。肩に乗せていた足を下ろしてやって、赤い顔 をしている小十郎のほおをゆっくりと撫でてやると、無意識なのか女の顔がてのひらに擦り寄ってくる。 佐助は顔を歪めて小十郎の膝を割った。 「小十郎さん」 名を呼ぶと、虚ろに彷徨っていた小十郎の視線が佐助を向いた。 先刻随分小十郎のせいで熱を孕むことになってしまった性器を、とろとろと溶解した秘部へと押し当てる。す こし小十郎の腰がずるりと後ずさった。そこを捕まえてやると、体が硬くなるのが解る。 小十郎の顔を見ると、その眉根には確かに怯えのようなものがかすかに見えた。 佐助は目を細め、口元をにんまりと笑みに歪める。 「怖い?」 「―――な、わけあるか、呆け」 かすかに怯えを孕んでいた小十郎の眉が、常のようにぴんと上を向く。 佐助は口元を笑みに歪めたまま、目をにっこりと細めた。それから表情を変えずにそのまま腰を入れて硬い性 器を小十郎のなかに挿入した。 切れ長の目が見開かれ、佐助の腕に小十郎の爪が食い込む。 「ッく、つぅ、―――う」 小十郎の秘部と佐助の性器が擦れるずるりという肉の音が鳴った。 狭く、ねっとりと性器に絡みついてくる肉の感触に、佐助は思わず細い息を吐き出した。脳天まで突き抜ける ような悦が全身を覆う。知らず佐助は小十郎の背中に腕を回し、ぐいと引き寄せ、まったく隙間もないくらい にぴったりと体を重ねる。そうすると益々小十郎のなかは佐助の性器にねっとりと絡まってくる。佐助はうっ とりと小十郎の名を呼んだ。 「小十郎さん」 返事はない。 「ああ、っと。ごめん」 よく見ると腕の中に居る小十郎は痛みのためにほろほろとらしくない涙を流していた。 佐助は思わず笑い声をもらしてしまった。いたいけに、おぼこく可憐な涙を流していればいいようなものを、 小十郎はそれこそ戦場で痛みに耐えるような苦渋の表情で歯を噛みしめ、そして目元を濡らしている。佐助は 身を乗り出してそれを舌ですくってやり、またけらけらと笑った。笑うと体が揺れて、小十郎の苦悶のいろは 更に深くなっていく。佐助は笑みを浮かべ、睫を吸ってやって、両手でやわやわと小十郎の乳房を揉んだ。 「痛い?」 小十郎は首を振っている。 けれどもそれが強がりなのはどう見てもあきらかだった。佐助は困ったように眉を下げた。ここで男に慈悲を 請うてみたり、あるいは健気に否定してみせたりできれば可愛い物を、もちろんそんな芸当がこの女にできる わけもなく、小十郎が首を振るのはただただ意地と矜持によるもので、それはいろめいた気分を盛り下げる要 素にしかなりえない。 ただしそれは一般的な話であって、決して佐助の話ではない。 佐助は小十郎の胸をなぶりながら、顔に口付けを降らす。 「息吐いて、小十郎さん」 「は、ァ、」 「そう。ゆっくり。深く」 さとすよう言葉を句切り、小十郎が落ち着くのを待つ。 小十郎が吐き出す息を、すこしずつ深くしていく。胸が上下し、中も佐助の性器を撫でるようにゆっくりとう ごめく。あんまり心地良いその感触に好きなように動かしたい衝動に駆られたけれども、佐助はぐっと我慢し た。乱暴にしようかとも思ったけれども矢張りいざとなると労りたくなる。泣かれてしまっては尚更である。 ようよう落ち着いたらしいところを見計らって佐助はゆっくりと腰を動かし出した。 「あ、ァ、あ―――は、」 腰が動くのに連動して、小十郎が短い声を吐き出す。 震える手がゆるゆると上がって佐助の首に回った。佐助はそれに笑みを浮かべ、小十郎の顔の横に手を突い て秘部の入り口まで性器を抜いて、そこをぐるぐると掻き混ぜる。そうすると小十郎の腰が焦れったそうに すこし浮き上がるので、そこを見計らって深く穿ってやった。 「んぅ、あッ、ふう、う。さ、るとび、ぃ、さ、るとび」 中の一番奥を突くと、震えながら小十郎が佐助を呼ぶ。 佐助は笑みを浮かべたまま、もう痛くないかと、半ばは解り切っていることを問うてみた。小十郎はこくこ くと首を上下させ、佐助の首に回していた手を赤い髪に突っ込んで口付けを請うように軽く引き寄せる。佐 助はもちろん逆らわずに小十郎に口付けた。おんなじように小十郎の髪に手を突っ込み、引き寄せる。それ と一緒に秘部の中頃にある凝りを性器で擦ると、佐助の口の中に小十郎の悲鳴が飛び込んできた。 口付けを止め、小十郎の首に顔を埋めて殊更にその凝りばかり突く。 小十郎のあげる悲鳴の間隔が次第に短くなっていく。 「や、あぁ、あッ―――あぁ、あ、ンッ」 凝りを擦りながら奥の奥まで性器を挿入すると、小十郎が背中を反らせて体を痙攣させた。 達したらしい女の様子を笑みと一緒に満足げに眺めてから、佐助は性器を引き抜いてひくついている平らな 腹に向けて熱を放った。 ぽかりと薄く開いている小十郎の唇に、水を含んだまま口付けてそれを流し込んでやる。そうするとこくりと 喉が鳴って、それが彼女の体に吸い込まれていった。佐助は顔を離し、ほおを撫でてみる。小十郎は胸を上下 させて、どうにか必死に体を元に戻そうとしているようだった。 その様子を見ているとまたじんわりと下腹が重くなるようで、佐助はほうと息を吐く。 「惚れるッて怖いなあ」 そう若くもないのに、欲が溢れて怖い程だ。 汗と涙で濡れている小十郎の顔をゆるゆるとてのひらで覆って、自分のほうを向かせる。お世辞にもその顔は うつくしいとは言えなかった。元々女らしい顔はしていない上に、まったく見目に構わない小十郎の肌は日に 焼けて浅黒く、手触りもざらついている。その上に無理に白粉を乗せたので、剥がれてしまうといかにも無残 だ。斑になっている肌を拭うように指を動かし、けれども佐助はうっとりとそのざらついた感触に感じ入る。 犬かなにかのように白粉の残った部分を舐めると、小十郎がひくりと大仰に体を揺らした。 「あ、う。止せ、阿呆」 「また感じちゃった?」 へらりとだらしなく笑って、今度は薄い唇を舐める。 小十郎はそれに抗う気力もないのか、すこし眉を寄せただけで顔を背けたりはしなかった。それをいいことに 佐助は唇の中に舌を入れこんで、小十郎の舌をくすぐり、歯列をなぞり、口の中の隅から隅までを心ゆくまで 堪能する。鼻から抜けるような吐息を小十郎がもらしているのを聞くと、先刻散々散らした欲が瞬く間に戻っ てくる。まずいなあ、と佐助は思った。さすがにこれ以上は小十郎が壊れてしまうかもしれない。 口を離すと、小十郎はすっかり弛緩してまた浅い息を繰り返している。 佐助はにこにこと笑みを満面に充たし、上下に揺れる胸をてのひらで覆った。 「どきどきしてる。かわいいおひと」 多分端から見れば小十郎にそんなことを言っている自分は相当おかしいのだろうと思う。 けれども生憎体の芯から小十郎に惚れている佐助は、それが例え一般に言っておかしいことであったとしても まったく気にはならなかった。むしろそれは好都合だとすら思った。やわやわと彼女の体のなかで数少ない女 らしくやわらかな部位を揺さぶると、それと連動して堪える力も失せた口から高い声が途切れ途切れにあがる。 「ぁ、はぅ、う―――あ、ァ」 「小十郎さん」 嗚呼なんてかわいらしいんだろう。 こんなのを見るのは自分ばっかりで十分だ。佐助はまたひとつ口付けを落として、辛うじて髪にぶらさがって いる簪をしゃらりと指で揺らした。そして改めて、今も後ろで気を失っている男に憎悪を感じた。最後までし ていたらそれこそこの世から消していたところである。ここで小十郎が悪いと思わないところが、まあ惚れた 贔屓目だろうと佐助は思った。仕様がない。惚れているのだ。 小十郎はくたりと骨を無くしたように倒れている。 胸の天辺をぴんと弾くとそれが弾かれるように跳ねる。佐助は笑みをますます濃くして、これはもう一遍くら い繋がらないとどうにも自分の収まりが付かないことを、さっさと認めることにした。 まあ仕様がないだろう。あれだけ煽られたのだ。 俺のせいじゃあない。 簪を抜き取って小十郎の顔の前で揺らしながら、もう片方の手でくるくると臍の辺りを撫でる。 「も、さわ、ンな、あほ、ッ」 小十郎が忌々しげに吐き捨てる。 佐助はまったくそれを聞かないで、しゃらしゃらと簪を揺らした。 「ね、小十郎さん。今度は俺の前でめかして頂戴よ。俺結局、あんたの艶姿見てねえンだから」 臍から手を下ろし、下腹を押すように手を動かすと、うっとりとした息が小十郎の口からもれた。感じ易い情 人というのはとても素敵だと佐助は思った。何にしろ話が早い。更に指を下ろして、するすると秘部に触れて みると、案の定そこはまた新たに熱く湿り始めていた。 了解を取る意味で小十郎ににんまりと笑いかけると、忌々しげに簪を振り払われた。 板間に落ちた簪が耳障りな金属音を響かせる。 「なあ、にすンの。壊れちゃうじゃない」 「知る、か―――あ、あぁ、ん、ん」 言うのとおんなじに性器を再び秘部へ入れると、小十郎の罵声が途中で嬌声にすり替わった。 ねっとりと暖かい感触に息を吐き、そのままゆるゆると腰を動かす。すぐさま達するような動きではなくて、 長くゆるく続く刺激に、小十郎はとろとろ溶けそうになる顔を必死で厳めしくしかめている。 絶え絶えの息のなかで、壊れちまえ、と吐き捨てる。 「あん、なもの、二度と、付けるか」 「あんなものって。そりゃひでえや」 眉を下げ、いかにもがっかりした顔を貼り付けながら小十郎の指に自分のそれをするりと絡める。いっとう奥 まで性器を押し入れて、そこでぴたりと動きを止めると絡めた指がぎゅうとしがみついてきた。中途半端な呼 吸を短く吐き出して、小十郎は意味をなさない罵声を必死でつづっている。佐助はそれがいとおしくって仕様 がない。うっとりと耳を澄ます。 阿呆、馬鹿野郎、死ね、色惚け。 小十郎の罵声は止まない。あまったるい声で罵られることの心地よさといったらない。 そこまで罵倒する相手に抱かれたくてこんな場末の連れ込み茶屋にこの女は居るのだと思ったらますます下腹 がぐるぐると熱を孕みだした。 罵られて盛るなんていよいよ俺も変態くせえなあ。 まあそれもいいよね、と適当に考えながら佐助は口角を持ち上げる。 「些っとくらい素直になりゃいいのに。つくづくかわいくねえおひとだよ」 まあそこがかわいいんだけど。 だらしなく崩れた顔で小十郎を見下ろし、佐助はほうと息を吐いた。小十郎はきつく―――と言ってもかなり ゆるまってはいたけれども―――目を細め、佐助を睨み上げる。悔しげに歪められた口元が、できうる限りあ まったるい声をもらさないように細心の注意を払って薄く開かれた。 阿呆、と言う。 「こんなのおまえだけに決まってんだろうが」 佐助はぼうっと小十郎を見下ろした。 体の下に居る女は言ってやった、というような、ざまァ見ろ、とでも言うような、とにかくそういう顔をして いる。睦言を言ったつもりはないらしい。ふん、と鼻を鳴らして、それから握り合っている手に爪を立ててい る。佐助はその痛みにはっと我に返り、改めて小十郎をじいと眺めた。 それから、これ以上は崩しようがないというほどにへらりと顔をとろかせた。 「怖いくらいかわいいこと仰る」 「は、何の、」 話だ、と言う前にくるりと小十郎の体を反転させて布団に肩を押しつける。 急に動かされて、小十郎は高い悲鳴をあげた。佐助は構わないで広い背中に覆い被さり、そのまま腰を動かす。 遠慮無く性器を出し入れしていると、そのうちに小十郎は罵声すら飛ばさなくなって、ただあまったるい声を 吐き出すばかりになった。普段低い声が高く掠れている。それがときどき浮かされたようにして佐助の名を呼 ぶ。さるとび、さるとび、さるとび。 佐助は小十郎の耳に唇を寄せてそれに応えてやった。 「そうやって、ずうっと俺の事だけ呼んでてね」 あんたが俺の物になるのなんて、こんなときだけなんだから。 恨みがましい独占欲をこっそりと込めた言葉は、小十郎の絶え間ない掠れた声と混じり合って、結局は熱の中 に埋もれて消えてしまった。 おわり |