その日アパートにはひとりと二匹しかいなかった。 今時珍しいちゃぶ台にほおづえをつきながら、猿飛佐助は目の前の夕食が冷めていくのを見つめる。その横では猫二匹が主人ふた りの食べてよしの合図を今か今かと待っていて、佐助はそれに気づいて苦く笑った。 「食べていいよ」 猫は二匹、顔を見合わせる。 それからへたりと座り込んで、顔を餌から背ける。食べる気は、ないらしい。 佐助はすこし目を丸くして、ああおまえたちもみんな一緒がいいよねぇと笑った。 午後9時、外は雨。 そもそものこのアパートの主、片倉小十郎はまだ帰ってこない。 「・・・はやく帰ってこいよ、ばぁか」 いつもとすこし、ちがう朝 小十郎と佐助が一緒に暮らし始めて、もう三ヶ月になる。 少女マンガですか?と言う風に出会い(雨の中小十郎が猫を拾ったところを佐助が見つけた)同じ猫愛好家として仲良くなり、元 々の世話好き体質から勤労学生の小十郎のごはんの世話などすることになり、小十郎の猫の政宗からひっかかれたりひっかかれた りしつつ、まあオトモダチとして過ごした一学期は平和だった。 ただし佐助の心のほうは全然平和じゃなかったが。 佐助は小十郎を、たぶん、すきらしい。 うお、と佐助は思った。思わずちゃぶ台に突っ伏した。 ないない、と何度も否定はしたのだ。だって佐助はオンナノコがすきだ、普通に。中学生のときだって高1のときだって普通に、 彼女はいた。元々あまり熱くなるタイプではなかったから、ものすごくすきになるとかそういうことはなかったけれど普通に彼女 たちを可愛いと思ったし、やさしくしようと思ったし実際にした。 ちゃぶ台に顔を埋めながら、佐助はちらりと小十郎の顔を思い浮かべる。 小十郎は、お世辞にも可愛いとか美人とか華奢だとか、つまり健全な高校2年生の男子がひかれるような解りやすい要素をただの ひとつだって持っては居なかった。顔立ちは整っているが、その左頬にきざまれた傷とか眉間に深く彫り込まれてるしわとか、確 実に高校生じゃない。留年でもしたんじゃねーの佐助は最初思ったが生粋の17歳だというから驚きだ。人類の神秘だ。 身長は佐助より18センチも高くてどこに居ても頭ひとつ抜けている。体は隆々と逞しく、どの部活からも引く手あまただがバイ トで忙しいので帰宅部だ。堂々と校則違反をしてでかいバイクを乗りこなして登下校している。似合いすぎてどうかと思う。 性格は顔に似合ってちょっと怖いし短気だしおっさんだが、それでも猫にはすごく優しかったり面倒見が佐助とは違う意味でとて もよかったり(佐助は世話焼きだが小十郎の場合はなんだろう、アニキって感じだ)寒がりだったりする。 それでだ。 それで佐助は小十郎がすきなのだ。たぶん、かなり。 (うわあ) 佐助は顔を手で覆う。なんか乙女思考で死にたくなる。 気づけばすでに時計の針は短針が10を指していて、猫二匹は仲良く猫用ベッドで丸くなっている。結局餌は手を付けられないま まに放置されていて、佐助はそれを生ゴミのところへ捨てた。佐助と小十郎の分の夕食はラップを掛けて冷蔵庫へしまう。 そこまでしたら、部屋がやけに広く感じられて驚いた。 神田川ではないけれど、小十郎のアパートは今時よくぞ見つけたというくらいの小さなものだ。台所は狭いし、部屋は二間しかな い。トイレはあるが風呂はない。なので本当に佐助と小十郎は神田川よろしく銭湯に行っているのだが、今日は小十郎が帰ってこ なかったから行きそびれた。前髪を固めてある佐助は、明日のじぶんの髪の惨状を思ってため息をつく。 佐助は元々両親と一戸建てに暮らしていたから、正直小十郎のこの質素な暮らしは未知のものだった。なんだか流れで一緒に暮ら すことになった時も、最初はせめーせめーと文句ばかり言っていた。のに。 (・・・ふたりがひとりになるって、でかいわ) ちゃぶ台を片付けると、ますます空洞が大きくなったような気がする。 佐助は布団を敷いた。一枚。最初は二枚だったのだけど、寒がりの家主がもぞもぞ結局佐助のほうへ潜ってくるので結局一枚でい いじゃねーかということで今は一枚だ。小十郎は規格外にでかいし、佐助だって高校男子としては標準なのだから、当然ぎゅうぎゅ うだが寒い夜はそれくらいがちょうど良い。 その布団に佐助はひとりで潜り込む。 寒いな、と思った。 太陽が差し込んできて、朝が来たことを佐助は知った。 日曜日なので急ぐ必要はないが、それでも佐助はいつも朝の6時には目が覚める。朝食をふたりと二匹分作る義務があるからだ。 その口実がなくてはこの家に居候することもできないのでこれは死活問題なのだ、わりと。 起きなくちゃーうわあ寒いーと思いながら、目を開けた。 「あ」 思わず声をこぼす。 目の前に小十郎の顔があった。 佐助はふう、と息を吐く。帰っては、きたのだ。いつかは知らないけれど。体に触る感覚が、いつも小十郎が来ている寝間着代わ りのジャージのそれではないので、たぶん帰ってきてからすぐに布団に潜り込んできたのだろう。絡まった足はかさかさとデニム の感触がする。靴下もはいたままで、それでも温源を求めてすり寄ってくる小十郎の足の指に佐助はちらりと笑った。 (しかし困ったね) 普段、小十郎は寒がりとは言っても、寝起きはいい。 常に体を寄せ合って眠ってはいるが、朝になって佐助が食事の支度をはじめるとすぐに離してくれる。だが今日は余程疲れている らしく、もぞもぞと佐助が動けば動くほど太い腕がぐいぐいと締め付けてきて、苦しいくらいだ。困ったなあと思いながら佐助は すこしずつ赤くなるじぶんの頬に手をあてた。あつい。 この状況にもなんだかんだで大分慣れた。が。 それでも佐助は小十郎が、すきなわけで。 自覚しなければ平気だ。寒がりの小十郎が湯たんぽ代わりに佐助を使っていることなど百も承知で、それをなんだかんだで容認し ているところに欠片の下心もないと言えば嘘になるけれど、できるだけ変な気持ちにならないように努力はしている。佐助はじぶ んの理性にはちょっと自信があるのだ。 だから夜くっついてあったかくなって眠って、朝起きてすぐに離れればどうってことは、ない。 (ちょっと、やばくね、これ) 逆に言えば、その状態が維持されると、すごくこまる。 佐助は焦った。だって小十郎の顔が目の前にあって、寝息とかがかなり近い位置でしっかり聞こえて、そのうえすっぽりと佐助の 体は小十郎に包まれてる。わーわーと思いながらせめて顔だけでもとそらしたらそこは小十郎胸元で佐助はぎゃーと心の中でおた けびをあげた。 「ちょ、片倉さん、はなし・・・・っ」 て。 と。 続けようとしたのだ。 佐助はそこで、ぎくりと固まって、動かなくなった。 (あれ、これって・・・) たらり、と背筋をいやな汗がつたう。 感じてはいけない感触を感じてしまった。腿とかその辺りに。 (これはあの、朝特有ていうか男特有ていうか要するに) 佐助の腿は、小十郎の股にがっちりと挟まれている。 ちょうど、ジーンズのチャック辺りとかちょっとぼかして言うが、要するに。 (朝勃ち・・・・!!!) 生理現象である。 一切の特殊な感情は入り込まない、純粋な自然現象である。 だが佐助は小十郎のその部分の熱を感じ取って、一気に頭の先まで沸騰するような感覚がした。佐助を抱きしめているのだ、小十 郎は。その状態でまあそういうことになっているわけで、佐助は違うぞ俺勘違いするな俺とお経のようにじぶんに言い聞かせる。 そうでもしなければ、馬鹿な勘違いでうっかりしあわせになってしまいそうだ。 (どこの乙女だ俺は) もうそれについては小十郎に惚れた時点で諦めてる。 とにかくどうにかしなくてはーと思ったところで、はた、と気づいた。すこし体を離して小十郎の顔を見る。 矢張り。 「・・・ぅ」 眉間にしわがよってる。いやそれはいつもだけど。 普段なら寝ている時だけは安らかなその顔が、いつもどおりのやくざ顔。要するに苦しげな顔をしているのだ。佐助はもぞもぞと 動いて顔だけ布団のなかに突っ込んだ。その部分を目をこらして見てみる。当然と言えば当然だが、小十郎のチャックはきっちり と閉まっていた。 (そりゃあ苦しいでしょうよ) 佐助はすこし同情した。 小十郎のそれのサイズなどもちろん知らないが、しかしこの図体で小さかったらびっくりだ。おそらくそれ相応のサイズではある のだろう。それがジーンズに締め付けられているのなら、相当にきついはずだ。 小十郎は昨日いつ帰ってきたのだろう。佐助は思う。佐助が寝たのがたぶん12時くらいで、そのあとなのは少なくとも決まって いる。何時だろう。確か昨日のバイトは運送関係だったから、さぞ疲れ切っているはずで、なら今日はとことん休ませてあげたい と佐助は自然に思った。 (・・・よし) 意を決して。 佐助は小十郎と自分の体の間に手を潜り込ませる。そして小十郎のジーンズのチャックをじーと外した。そのうえのボタンも外す。 ふ、と頭の上のほうで小十郎が息を吐く音がした。ゆるめられて楽になったのだろう。佐助も安堵の息を。 吐こうとして逆に飲んだ。 そして固まった。本日二度目だ。 佐助は固まりながら考えた。俺の馬鹿。ちょっと考えれば解っただろうになんてことだ。 (きついのゆるめたら出てくるわあああああ!!!) ぴょん、と。 飛び出してきたそれは、当然のように佐助の手に当たった。 だってそこに手があるのだから仕方ない。 慌てて手を引っ込めて、ふうと安心したのもつかの間。佐助のした行為は言ってみれば大波がこちらに押し寄せてきたので足を一 歩引いてみるとかそう言うことなのだ。要するに焼け石に水というか、無意味。 手が引かれたので更に障害を外されたそれは、元気に佐助の腿あたりをぐいぐいと押している。でけぇな!しかもかてーよ!と佐 助はほとんど泣きそうになりながら思った。顔が、あつくて溶けそうだ。 なんとか体を離そうとして動けば、温源を死んでも離すまいと小十郎はますますくっついてくる。それもますますくっついてきて やめてーと佐助は悲鳴をあげたい。しかも中途半端に動いたせいでそれの距離が、微妙に佐助のそれと近づいてますますいたたま れない。 そこで佐助はふとあることに気づいて、一気に体温を下げた。 (片倉さんのがこんだけ、俺に当たってるってことは) 当然。 そう、と手を伸ばしてみる。自分の股のあたりを探ると、今日も高校生らしくそこは当然のように元気で、体の密着具合上当然の ように。 小十郎の腿に当たっていた。 死んでもいいかな、と佐助は思わず意識を飛ばしかけた。 小十郎が起きてもいないのに、あわあわといやこれはね生理現象であって別になんにも後ろ暗いことはないんですよと弁解を頭の なかで始める。佐助の過去の女事情のことまで脳内で並び立て、そのうえで俺はノーマルなんですよという理論を組み立て終わっ たところで佐助ははたと正気づいた。落ち着け、落ち着くんだ猿飛佐助。 とりあえずだ。とりあえず、これは今回が特別ではないのだ。いつもは気づいていないだけで、そりゃあふたりとも健全な高校男 児なのだから毎朝こういう現象はあって、それを今回偶然佐助が気づいてしまったという、それだけのことなのだ。 小十郎が起き たらいつものようにおはよーと言ってさっさと布団を出てちょっとトイレに行ってそれから朝食を作ればいいじゃないか! うんうんと佐助は心の中で深く頷く。だいじょうぶだいじょうぶ。 「・・・う、ぁ」 佐助が脳内でひとりしばいをしていたら、上のほうでうなり声がした。 顔を上げる。ひたり、と小十郎の目と佐助の目があった。 「あ」 声をあげて佐助はまずったなと思う。 寝ているふりをしていたら、小十郎が気づいても最低限佐助は気づいていないふりをすることも出来た。だが後の祭りだ。 小十郎はぼんやりとした目で、しばらく佐助を見つめ、それからようやくおはようと低い声で言った。佐助はひくりと引きつった 顔で笑い返し、おはようと少し震えた声で言った。顔がちけーよ、声が無意味にえろいんだよと心の中だけで毒づく。 「き、昨日、遅かったでしょ!今日はゆっくり寝てればっ」 「・・・・ぁあ、わりー、な」 「いえいえいえいえいえ!俺は朝飯作っておくからさ」 だから離せ。 佐助はそういうつもりでにっこりと笑ったのに、寝ぼけているからかなんなのか小十郎は一切腕の力を緩めない。おずおずと佐助 は言った。 「・・・・・・・あのー」 「・・・ぁ、んだ」 「離してくれないと、飯、つくれねーんですけど」 「俺は」 「え」 「眠い。まだ」 「はあ」 「まだ飯はいい」 話が見えない。 佐助が頭上にクエスチョンマークをひょこひょこと生産していると、小十郎はぽつりと呟いた。 「行くな」 「・・・・っ!」 息を飲む。 小十郎の寝ぼけたセリフがかなり佐助の心臓に悪かったこともあるが、それ以上に言葉と一緒にさらに強められた腕の力で思わず 引き寄せられた佐助の体は、というか、そこは。小十郎の腿に思い切り押しつぶされて、 「・・ぅ、あっ」 声が出た。 手を口で覆う。が、すでに遅い。顔を恐る恐る上げてみる。 小十郎は目を丸くして佐助を見ていた。 (気づかれた・・・・!) 佐助と小十郎はそのまま、三十秒ぐらい見つめ合ったまま黙った。 それに耐えきれなくなった佐助が、あはははははは!ともはや自棄でしかない笑い声をあげる。 「生理現象だよね!」 「・・・あ、あー」 こくんと小十郎が頷く。 佐助はその様子が、案外平静なのでほっと息をついた。大丈夫だ、変に思われていない。 よく考えれば変になど思う必要はまったくなくて、やはりここまで反応するということは相当このひとのことがすきなんだなぁと 佐助は耳まで自分は赤くなっているような気がして顔を伏せる。今更と言えば今更。それでもそういうことを考えてる自分が恥ず かしくてしかたない。 そんな佐助を尻目に、小十郎は興味深げにつぶやいた。 「おまえ、体の割に案外立派だな」 佐助はえ、と顔をあげて、それから呆れたように目を細める。 小十郎の言っているのは、いわゆるそれのサイズの話だ。しょうもない。大体体の割に、と言うが佐助の身長は170ジャスト。 決して小さくはない。小十郎がでかすぎるのだ。 あらゆる意味で。 「片倉さんのは体とか関係なくでかすぎると思います」 「そうか?比べたことなんざねぇから解らんが」 「・・・・・そのうえ堅くてらっしゃいますねぇ」 (あたってんだよ!) 佐助は暗に離れろという意思を込めて言ったのだが小十郎はほわほわとおまえもなーとか笑っている。解ってる。小十郎のほうが 一般高校生として正しい。 そうだよね、下の話とかすきだもんね普通ね俺も嫌いじゃないんだよあんたが関わってなければな! 佐助が悶々としていると、急に、小十郎がもぞもぞと動きだし、 「・・・・ひっ、あ!」 腿で佐助のそれをさすった。 かくん、と佐助の首が反り返る。小十郎はおお、とかなんとか感心したような声を出して更にもぞもぞやりはじめた。鍛えられた 小十郎の腿は堅くて、そこにこすられると男の体はかなしいくらいに正直に反応を示す。びくびくと跳ねる佐助の顔を小十郎はま るで珍獣でも見るような顔で熱心に見ている。 「ちょ・・っ、あんた、ひとの体で遊ばないでよっ」 「きもちいいのか?」 「・・・・っく、あ」 「いいのか?」 聞くな!と思いながらも佐助は返事をすることも出来ない。 もちろん肉体的な快感もあるがそれ以上に小十郎に自分の熱をさすられているこの状況に、佐助の思考は完全にヒートしていた。 佐助だって高校男児だ。持ち前の理性と常識とをフルに稼働させたところで、矢張りそっち方面を考えないわけがなく、そりゃあ 頭のなかでは色々考えたこともある。むしろ考えてばっかりだ。でもそれは絶対に実現しないこととして考えているわけで、こん なふうにぽん、と現実にその状況に放り込まれたら混乱するしかない。 ぐるぐるぐるぐる考えていた佐助は小十郎の、 「抜いてやろうか、なんなら」 という言葉に、完全に切れた。 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・そっちこそ」 ゆらり、と。 顔を上げた佐助に、小十郎はすこし身を引いた。瞳孔が開いてる。佐助はふふふふ、と笑いながらぐい、と小十郎の顔に自分の顔 を近づけ、耳元で言った。 そっちだって辛いくせに。 「俺様が、ぬいて、あげますよっ!」 「え。・・・っぅ」 小十郎が低く唸る。 佐助が小十郎の熱を、がしりと掴んだのだ。 下着の中にまだ収まっていたそれを、ぐい、と下着を下げて露出させる。それから佐助は息を飲み込みながらゆっくりとなで上げ た。ひゅ、と小十郎が息を飲む音がする。顔をあげてちらりと見れば、眉を潜めて唇をかみしめて、なんとすこし目元が赤い。 (う、わ) 佐助は呆然とそれを見つめた。 見とれた、と言ってもいい。 それでも動きを止めない佐助の手に、小十郎が荒い息のなかで途切れさせながら言葉をつむぐ。 「なに、しやっがんだ、てめっ」 「辛そうだからっ親切っ」 「いるかそんなもん!」 「泊めてもらってるお礼ですよっ」 布団の中でぎゃーぎゃー騒ぎながら、それでも佐助は手を止めない。熱い、と思った。小十郎の熱に直接じぶんが触れている。そ してじぶんの手で小十郎が熱くなっている、そう思うと佐助はもう離れたっていいのに、馬鹿みたいにじぶんについてるものを同 じ構造のそれを手放すことが出来ない。 しかし小十郎もされるばかりではない。 「泊めてんじゃね、え!住んで、ぁ、んだ、ろがっ」 「・・・・あんたずれてるわ、やっぱ」 佐助は思わず笑った。 小十郎はそれで、いっしゅんだけ緩んだ佐助の注意のすきをついた。 佐助の首に、思い切りかみついたのだ。 「・・・・あっ!」 佐助は声を上げた。かみついたと言ってももちろん甘噛みだが、いっしゅん食いちぎられるような気がしてさぁっと背筋が寒くな る。そして直後にかっ、と熱くなった。小十郎が佐助のパジャマのズボンに手を突っ込んで、熱を掴んでいる。 「や、いい!あんたはいいんだよっ」 必死で逃れようとするが小十郎はそれを許さない。 片手で佐助の腰を掴んで、更に密着させる。そのうえで掴んだ熱を乱暴に擦り上げた。佐助はいっしゅん息を飲んで、しかしそれ から吹っ切ったように今度は両手で小十郎の熱を掴み、擦り上げる。小十郎の肩に額を当てる。そうすると耳元に小十郎の乱れた 息づかいが感じられて、佐助は泣きたいような気持ちになった。 佐助の髪に顔を埋めている小十郎が、乱れた息の中で言う。 「・・・っ、おまえの」 「な、に」 「あ、ちぃ」 くぐもった笑いが佐助の鼓膜をくすぐる。 佐助も笑った。 「あん、た・・・ぅんっ、のはっ!おっきぃ、よっ」 誇張でもなんでもなくちなみにそれは真実だった。 元からでかかったのに佐助が擦ってる間にもそれはどんどん大きくなって、片手では掴みきれないほどになっている。 佐助はそれ を両手で擦りながら、ちょうど尿道のあたりを親指で押してみた。小十郎が、あ、と高く声を出していっしゅん動きを止める。こ こがきもちいのだと思って佐助はそこをしばらく撫でていたら、くちゅん、と音を立ててなにか指先に熱いとろとろとしたものが ついた感触がした。 思わず佐助はつぶやいた。 「あ、出てる・・・」 「くそっ!し、かたね、だろっ」 小十郎が悔しげに唸る。 佐助がくちゅくちゅと尿道ばかり擦っていたら、耐えられなくなったのか小十郎は佐助の腕を思い切り取り払い、 「あ」 じぶんのさすっていた佐助の熱と、じぶんの熱を同時に握った。 ひ、と佐助は変な声を思わずあげた。小十郎がそれを笑う。笑いながら、小十郎のおおきな手がふたつの熱を擦り合わせる。その うちにくちゅくちゅと両方から液体がこぼれはじめて、佐助はたまらなくなって自分もそこへ手を伸ばした。小十郎の手に重ねる ように自分も手を置き、動かす。 「・・・っ、あ、や、だっ」 「っく、ぅ」 まったく同じリズムでふたりの声が上がる。 乱れた息づかいと、濡れた音と、布団のこすれる音がしばらく狭い部屋のなかに響き、 「・・・・・・っ」 どちらとも解らない息を飲む音と一緒に止まった。 (・・・・・・どのタイミングで顔を上げたらいいわけ) 佐助は考えていた。 ものすごい勢いで考えていた。 どうしたら不自然じゃなく、気まずくなくこの後の動作をすることが出来るのか、を。 そして結論は。 (無理だろ) というところに落ち着いた。 だってやってしまった。色々と。今だって佐助は小十郎の手とあとふたりぶんの萎えたそれを握っているのだ。離したいけど離す タイミングも解らない。大体なんか濡れてるのがもうどうしていいか解らない。この液体も佐助のだけではないわけで、うわああ と佐助はそのまま逃げ出したくなる。 そのとき、 小十郎が呟いた。 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・はら、へった」 「・・・・ここでそれっ!?」 思わずつっこむ。 小十郎は大きい声をあげた佐助をうっとうしげに見て、それから濡れた手を布団に触れさせないように慎重に引き上げ、枕元に置 いてあるティッシュで拭いた。掛け布団をがばりとはいで、佐助にもティッシュをわたす。見れば手だけではなくお互いの腹のあ たりに白い液体がかかっていて、佐助は顔をぽん、と赤くした。 「トマトみてぇだぞ」 小十郎が笑う。心なしか声は擦れている。 佐助はちくしょー格好いいなもうーと思いながらティッシュを受け取り、手とパジャマについた液体を拭く。幸い布団にはかから なかったようだ。そんなものがかかったシーツとかを洗濯するのは嫌すぎる。佐助がそう思っていたら、ぐう、と音がした。小十 郎の腹と、佐助の腹、両方から。 ふたりは顔を見合わせて、それから笑った。 「ごはん、作るわ」 「おお」 「布団いちおー、だいじょぶとは思うけど干しときたいから、ベランダ出しといて」 「わかった」 「よろしくー」 よいしょ、と立ち上がって佐助は台所に向かおうとする。 その後ろ姿を見ながら、おい、と小十郎が呼びかけた。佐助が振り返る。なに?と首を傾げると珍しく歯切れの悪そうに小十郎は あーとかうーとか言って、それから、 「悪い。なんでもねぇ」 と言った。呼んだだけだ、と言った。 ふうん?と佐助はそのまま台所へ向かう。台所は細長く通路のようになっていて、小十郎のいるところからは死角になっている。 台所に入って、冷蔵庫のあたりまで進んで、それから佐助はへたりと床に座り込んだ。 顔が熱いとかもう、そういうレベルではない。 溶ける。 いやきっと溶けてる。 (かたくらさん、が) 口に手を当てる。 そうしたらなんだか生臭いにおいがしてそれが小十郎とじぶんの精のにおいだと解って、佐助はあわてて手を除けた。冷蔵庫に額 をくっつけて床の板目を見つめる。信じられない。 (おれの、さわった) 佐助は冷蔵庫の枠にてのひらを押し当てて、思い切り掴んだ。そうでもしないとふわふわと体がどこかへ飛んで行ってしまいそう だ。まざまざと小十郎の手の感覚がよみがえる。指は長いけれど太くて、すこしかさかさと乾燥していた。佐助の手とは比較にも ならないくらい大きなそれは、佐助の熱など容易に包み込むことができて、 (ぎゃああああああああ) 佐助は声にならない悲鳴を上げる。 どうしよう、と小さく口にする。どうしようどうしよう、死ぬほど恥ずかしい。 「・・・・・て、いうか」 もう小十郎の顔とか、見れないんじゃないだろうか。 佐助はいっしゅんそう思って、それってなんて恐ろしいんだろうと思った。だってとりあえずこの台所を出たら小十郎はそこに居 て、向かい合ってこれから朝食で、そのあとは小十郎のバイクの後ろに乗って登校で、それになにより今夜だってひとつの布団で 寝るのだ。 「・・・・・・・・・・おれさま、生きていけるかな」 佐助はぽつり、と呟く。 いつの間にか足下に来ていた佐助の猫の幸村が、にゃあと鳴いた。 下品なうえ内容がない。これぞやおい。 佐助が乙女です。脳内置き換えは「天使なんかじゃない」でお送りいたしたく(もちろんみどりちゃんが佐助ですよ) 空天 プラウザのバックでお戻り下さい |