じい、とジーンズのジッパーを下ろして、下着越しにかげつなの性器に触れる。
もうすこし芯を持ち始めている。佐助は呆れた。なんて簡単な生き物なんだろうと思う。息を吸い込む
音がして、見下ろしてみるとかげつなが眉を寄せて口元を歪めていた。佐助は目を細めて、ふん、と鼻
を鳴らした。
「おい、」
「なあに?」
「いいのか」
「なにが」
「会社だろう、ここは」
公共の場ではしちゃいけねェんじゃねェのか、こういうことは。
佐助は目をぱちぱちと瞬かせた。そういえばそんなことを言ったことも―――いつだったかに公園かど
こかで事に及ばれそうになったときに―――あったかもしれない。でもまさかそんなことをまだかげつ
なが覚えているなんて思ってもみなかった。鳥のくせにセックスに関わることだけはやけに覚えが良い。
佐助はにいと笑みを浮かべ、ゆるく勃ち上がった性器をくるりと指先で撫でる。
「そうだね。いけないことかも」
かもじゃない。
まったくもって、ありえないくらい非常識だ。
でも佐助は今更そんなことに拘っているつもりはなかった。大事なのはつまり、この会議室から雀を逃
がさないことであり、そのためにはこの方法がいろいろなものを放り投げてしまえば一番効率的で効果
的なのだ。案の定、指で性器を擦られているかげつなはとてもきもちよさそうにしている。
佐助は下着の中に手を突っ込んで、直接性器に触れた。
「ん、」
鼻に掛かった吐息めいた声をかげつなが漏らす。
佐助はぎゅ、と強く性器を握った。鋭い痛みにかげつなの眉が寄ったけれども、構わないで佐助は黒い
サマーニットに余ったほうの手を突っ込んで、胸元までそれをたくし上げた。効き過ぎた冷房にふるり
とかげつなの肌が粟気立つ。それを均すように、佐助はゆっくりとかげつなの腹から胸にかけての皮膚
にてのひらを這わせてやった。脇腹の骨を抉るようになでてやると、握っている性器がすこし熱を増す。
と、佐助の胸にかげつなのてのひらが当たった。
ぐい、と押し返され、腹に這わせていた手は振り払われる。
「どうしたの」
「―――ッ、てェよ。離せ、阿呆」
かげつなは上気した顔で佐助を睨んだ。
佐助は鼻で笑って、握った性器を強く上下に擦った。かげつなが顔を歪めて背を反らせる。もう完璧に
勃ち上がった性器を見下ろしてから佐助はそこから手を離して、一旦テーブルを離れて会議室のドアに
鍵を掛けた。こんなところを同僚に見られたら佐助は転職しなくてはならない。
かちゃりと鍵を掛けて、振り返るとかげつなはテーブルから背を離して、カーペット張りの床に座り込
んでいた。佐助はキイをてのひらの上で放ってからテーブルにかちゃりと音を立てて置く。その音に緩
慢にかげつなは佐助を見上げた。佐助はにこりと笑って、腰を屈めてかげつなにキスをした。
「テーブルの上はお嫌い?」
口を離してから佐助はそう聞いた。
かげつなは頷いて、背中が痛ェと不満げに唸った。それはそうだろう。
佐助は雀の言い分を聞き入れて―――譲歩するところはしなくては、後で報復がくる―――今度はかげ
つなの背中を壁に押しつけた。
かげつなのジーンズを膝まで引き下ろし、ぐいと腰を引き寄せる。
荒い息を吐いているかげつなの、軽く開いた口に指を二本差し込む。雀は素直にそれを舌で湿らせる。
佐助はくすぐったくてすこし首を竦めた。しばらくそうしてから指を引き抜き、代わりにかげつなの秘
部にひたりと押し当てる。一本差し込むと、無理な体勢で壁によりかかっているかげつながずるりとず
り下がってきた。
「ん、んぅ、う」
ちいさく呻いて、肘を立てる。
その肘もよく見るとすこし震えている。佐助はかげつなの中に入れた指を折り曲げ、皮膚の壁を押すよ
うに動かしてみる。震えはますますひどくなる。我慢しきれなかったらしい声がちいさくこぼれる。放
ったままにしてある性器はとろとろ溶けて、精液が根本まで伝って床にこぼれそうになっている。
佐助はそれをちらりと見下ろし、ああちょっとまずいなと思った。
床はカーペットだし、これからマンションにはいずれにせよ帰らなくてはいけないのだから洋服も汚せ
ない。佐助はポケットからティッシュを取り出して、しろい液体を拭って先端まで拭き上げた。けれど
もまた指を増やすと、すぐにティッシュは湿ってしまう。
「もうちょっと我慢できないの、かげつなさん」
「できる、か―――あ、ほ」
かげつなは舌打ちをして首を振る。
しょうがない。今まで我慢なんてしたことがないのだ。佐助は眉を寄せてしばらく考え込んだ。それか
らふと視線を自分の手首に落とし、ああ、と目を開く。
さっきまで自分の髪を結んでいたヘアゴムがある。
「―――なにして、ん、だ。おい」
かげつなが訝しげに、佐助の手にしたゴムを見てつぶやいた。
佐助はじいとそのゴムを眺めながら、どうなんだろうな、と考えた。どうなんだろうな、これは、結構
アブノーマルな行為に入っちゃう気がするよな。眉間にしわを寄せ、ううん、と唸る。佐助の下では指
を入れっぱなしにされている雀が苦しげに息を荒げている。これを使ったら更に苦しくなっちゃうだろ
うなと佐助はかげつなを見ながら思った。普段我慢なんてぜんぜんしないし、こちらもさせたこともな
いんだから、もし強制的に我慢をしなくてはいけなくなったらさぞ苦しいだろう。
そう思ったら、すこし腹の辺りが好奇心で重くなった。
「ねえ、かげつなさん」
そういえば、と佐助は思い出す。
そういえば俺はこの雀に腹を立ててたんじゃないか?
「我慢できないなら、これで止めてもいい?」
指にゴムをかけて、くるくると回して見せる。
かげつなは苦しげに歪んだ顔で、ぼんやりと佐助の指に視線を上げる。
「何故」
「だって汚れたらおうち帰れないじゃない」
「あァ、―――そう、か」
「しょうがないよね?」
佐助が首を傾げると、かげつなものろのろと首を前に傾けた。
あんまりよく解っていないのだ。佐助にはそれがよく解ったが、合意を得られたことには変わりがない
ので、早速ヘアゴムでかげつなの性器をきゅっとくくってやった。二回ほど捻らせて、取れないように
ややきつめに結ぶ。
かげつながぎょっと目を見開いた。
佐助はうっすらと笑みを浮かべて、困ったような中途半端な笑い声をこぼして視線をちらりと外した。
「―――これは、」
思ったよりもずっと変態臭い。
なんといってもヘアゴムの色がピンクなのがとてもよくなかった。佐助は急に恥ずかしくなって、赤く
なった顔に手の甲を当てた。ああ、どうしてときどき俺はこういう暴走をしちゃうのかなあと佐助が深
く後悔をしていると、ずるずるとへたりこんでいるかげつなが苦しげに呻いた。
はっと気付いて見下ろすと、佐助に劣らず顔が真っ赤になっている。
「ってェ、く、ぅ、う」
「ごめ、―――痛い?」
「痛くね、ェ、わけあるか、ッ」
黒い眼がかすかに水を含んでいる。
珍しいものを見て、佐助はすこし呆気に取られた。
早く終わらせろとかげつなが荒い息のなかで必死に声を絞らせる。佐助はそれにもまた驚いた。この雀
がいまだかつて、セックスを早く終わらせろなんて言ったことがあっただろうか?ピンクのゴムでくく
られた性器は充血して震えている。もちろん痛いだろう。でもなんだか佐助にはそれが奇跡のアイテム
みたいに見えてきた。雀がセックスを嫌が―――ってはいないかもしれないけどいつもよりは消極的に
なっている。正しく奇跡だ。
痛がってる雀は、正直に言って新鮮でぜんぜん悪くなかった。
佐助はかげつなの秘部から指を引き抜き、自分のスラックスのジッパーを下げた。すっかり骨抜きにな
っているかげつなの腰を引き寄せて、自分の足で腰を抱え込む。それからまだ完璧には勃起していない
性器を、かげつなの性器と一緒に握った。
肩に額をつけていたかげつなの顔がはっと持ち上がる。
「ぅあ、ァ」
「は―――あっ、つ」
佐助は息を吐く。
焦げるくらいかげつなの性器は熱い。
ゴムで抑えていてもかすかにはこぼれてしまう精液で、ぬるぬると滑るそれに自分の性器を重ねて擦る
と頭の中がさあっとまっしろくなっていくようだった。肩ではかげつなが呻きながらちいさく頭を振っ
ている。いつもとちがうその弱々しい態度に頭がくらりと回りそうになる。
何回か擦り合わせて性器が芯を持ったことを確認すると、佐助はかげつなの腿を掴んで自分に更に引き
寄せた。秘部に性器を押し当てると、ぎょっとしたかげつなが慌てたように体をすこし離す。
「まて」
「ん、―――なあに?」
「この、ままですんのか」
「だからあんたが汚さないようにって言ったでしょ。何もなしで挿れたらかげつなさんすぐ出しちゃう
じゃん。ちがいますか?それとも何もなしで我慢できンの?」
かげつなは黙った。
佐助はにこりと笑ってから、かげつなの体を引き下ろして一気に性器を挿入した。
「あァ、あ、っぁ、ふ、う」
広い背中が反り返る。
佐助はそれを押さえ込むように引き寄せて、かげつなの胸元で深く息を吐いた。三日ぶりの熱い感触に
すぐにでも達しそうになる。いつもより締め付けが強いのは、もう軽くかげつなが達してるからかもし
れない。ちょうど佐助の腹の辺りにある熱の塊は、堰き止められてひどく苦しげにひくついていた。
ゆっくりと腰を回すように動かすと、かげつなが頭にしがみついてきた。
「あ、ぁ、よせ、ぅあ」
「ええ、な、んで?」
「とれ。あれ、とれ」
やけに舌っ足らずにかげつなは言う。
佐助はにんまりと笑いながら、目の前にあるかげつなの鎖骨にキスをしながら「駄目」と断じた。
「何度も言わせないでよ、ね」
「ぃあ、あッ、ァ」
一旦持ち上げてから深く突き刺すと、かたかたと佐助を抱え込む腕が震えた。
水音がクーラーの稼働音と一緒に鼓膜を揺らす。つうっと汗がこめかみを伝った。反り返っている背中
を撫でて震えを取ろうとしてやったら、そんなぬるまったいことは望んでいないとばかりにかげつなの
腰がゆるゆると動き出した。
「てェ、痛、―――くぅ、う、ん、ん」
体温がかあっと上がる。
動けば動くだけ痛いんだろうに、この雀は。
佐助は首を振って頭の熱を飛ばしてから、相手の望み通り腿を持ち上げては下ろし、深く差し込んでは
引き抜いてやった。その度にかげつなは声を出して震える。達せないので弛緩もできない。声はどんど
ん高くなる。鍵を閉めていても誰か通りかかったら聞こえるんじゃないかと佐助は思った。
「さ、るとび、も、とれ、―――あ、ァ、とれ」
「んん、どう、しよっかな」
佐助は薄く笑って首を傾げた。
射精はできなくてもかげつなは何度か小刻みに達しているようで、その度にきゅっと体内が締まる。そ
れがたまらなくきもちいい。そろそろ佐助も限界だった。背筋に震えがいく。熱が下腹でぐるぐると旋
回してはち切れそうになっている。
佐助は腰の動きをゆっくりとしたものに変えて、かげつなの性器の先端を親指で抉った。
「あ、ァ」
「取ってほしい?」
かげつながこくこくと頷く。
佐助はますます笑みを深めた。
「じゃ、この後は真っ直ぐおうち帰るよね?」
「あ、あ、―――かえる、か、」
「それでもう二度と会社には来ないよね?」
こねえ、とかげつなは絞り出すように言った。
佐助はにっこりと満面を笑みに染めて、ぐっと今までよりずっと深く性器をかげつなの中に突っ込んだ。
「ひ、―――ッ、ァ、あ、て、めェッ、んん、ッ」
「だって、俺がまず出さなきゃ、出してあげらンないでしょ」
「あ、あ、あ、ん―――ん」
かげつながふるりと体を震わせて、一際中を狭めたので、佐助は逆らうことなくそこに射精した。
かげつなの背中をぎゅうと抱き締め、絞り出すように性器を締め付けてくるうねりにうっとりと身を任
せる。三日ぶりの射精はいつもよりすこし長かった。そしていつもよりかなりきもちよかった。
すべて出し切ってから佐助は性器をかげつなからゆっくりと引き抜いた。
ぐったりとした雀を壁にもたれさせ、かわいらしいピンクのゴムを性器から取ってやる。するととろと
ろとしろい液体がこぼれ出した。佐助は身を屈めてそれを舌ですくい取り、ぱくりと先端を口に含んだ。
投げ出されていた長い足がぴょんと跳ねて、佐助の腰を挟み込むようにぐっと狭まる。ちらりと見上げ
るとかげつなは壁にほおを擦りつけて目を閉じていた。ほおを窄めて苦い液体を吸い込むと、閉じてい
た目がぼんやりと開いて、うっとりと細く弧を描く。
かげつなの性器はなかなか熱を出し切らなかった。
とろとろと溶け落ちる熱はとても緩慢で、全部出し切るまでにかなり時間がかかった。その間疲れ切っ
た雀は―――これもとてつもなく珍しい―――ぐったりと壁に寄りかかって、痙攣するようにときどき
体を跳ねさせた。
「は、―――は、う」
残らず飲み込んでから佐助は体を起こして、まだ苦味の残る口をかげつなのそれに重ねてやった。
かげつなは素直に首を傾げてキスに応えた。きもちがよければ方法はどうであれ雀に異存はないことを、
佐助はとてもよく知っている。しばらく不味いキスをしてから、佐助はかげつなの手を握って立ち上が
った。互いの服を整え、にっこりと笑って、
「さあ、帰りましょうか」
おうちに。
佐助は最後の四文字を強調した。
「それでいっぱい続きしようね?」
だめ押しで付け加えると、疲れていたはずのかげつなが深く頷く。
もちろんすでに雀の脳内から「伊達政宗」はきれいに消滅している。佐助はへらりと笑みを崩して、か
げつなのほおにキスをした。
かげつなは不思議そうに目を瞬かせて、帰るぞ、と言う。
佐助はそれに頷きながら、かげつなと会ってからおそらくは初めて、恋人が鳥でよかったと心の奥底か
ら運命に感謝した。
待ち合わせの喫茶店に入ると、目的の人間はすぐ目に付いた。
相手が手を挙げたので、かげつなはおんなじように手を挙げてその席へと向かい、正面に腰掛ける。ウエ
イターにコーヒーを頼んで、メニューを閉じる。窓から差し込む午後のひかりが、相手の髪できらきらと
反射して、かげつなはちらりと目を細めた。
「猿飛はよかったのかよ?」
と、長曽我部元親が首を傾げ、持ったカップを持ち上げた。
かげつなは足を組みながら、寝てる、と短く答えた。
「寝てる?」
「関東大震災が起きても目を覚まさんだろう、多分」
かげつなはそう言いながら、出掛けにベッドに沈没していた同居人の姿を思い浮かべた。
一応声はかけてきたが、まったく返事がなかった。死んでるみたいだった。元親が訝しげに眉を寄せ、銀
色の髪を掻き上げてコーヒーカップを皿の上に置く。
「なんでそんなにぐっすり寝てンだ。もう一時じゃねえか。あいつそんなに寝汚ェ野郎じゃなかっただろ」
「さァ」
かげつなは首を傾げた。
それから、疲れてんじゃねェか、と答える。ああなるほど、と元親は納得したように頷いた。そういやあ、
あいつなんかのプロジェクトで徹夜だったみてえだからなあ。かげつなは首を傾げ、うんそうじゃなくて
な、と続けようとしたが、ちょうどウエイトレスが注文したコーヒーを持ってきたので、何も言わないで
それを受け取った。まァいいか、とコーヒーを飲みながら雀は思う。べつに原因が仕事であろうと交尾で
あろうと、ともかく佐助が疲れて死んだように寝ていることに変わりはないのだ。
カップを置いてから、持って来た紙袋を元親に渡す。
それを受け取った元親の口元がにんまりといやらしく上がった。
「どうだった、今回のやつは」
「いまひとつだ」
「なんだい、折角貸したってのによう」
元親は笑みを浮かべたまま紙袋を開き、中身を覗き込む。
おすすめだったんだがなあ、と中のDVDのうち一本を取りだし、ひらひらと左右に振る。そのパッケー
ジにはいやに肌色が多い。女の肌色ばかりだ。かげつなはじいとそれを眺める。人間の女の裸。
かげつなはコーヒーに砂糖を入れながら、よく解らなかった、とつぶやく。
「それは面白ェのか。女がずっと騒いでるだけだったぜ」
「面白ぇだろ。むしろこれが面白くねえって、あんた大丈夫かい」
「何が」
「いや男としてさ」
「男は他人の交尾を見て喜ぶのが普通なのか」
かげつなは首を傾げる。
見るより自分でしたほうがいいじゃねェか、と言うと、元親が腹を抱えてソファの上で笑い出した。さすが
だなあと言う。何がさすがなのかもちろん雀にはまったく解らない。
一頻り笑ってから、元親はDVDをしまってじゃあ今度は普通のを貸すよと言った。
くるくるとスプーンでコーヒーを掻き混ぜながら、ああ、とかげつなは顔を上げる。
「でも参考になったな」
「へえ」
「特に二枚目が」
「二枚目ってSMのか?」
「おう」
「―――参考?」
「あァ」
とても参考になった。
痛いのもときにはきもちがいいものなんだなと続けようと思ったが、一応雀はそこで言葉を止めた。
かげつなはコーヒーカップを傾けて頷く。砂糖を入れすぎたコーヒーはすこし甘すぎた。眉をひそめ、皿に
戻してテーブルの隅にそれを押しやる。元親はしばらく黙っていた。店のBGMでかかっているジャズだけ
が鼓膜を揺らす。
ようやく口を開いた元親が、呆れたようにあんたら仲が良いなあと言った。かげつなはコ
ーヒーのかわりにグラスに入った水を飲みながら、うんまァな、とさらりと答える。
「それより、今日は何か用事があったから呼び出したんじゃねェのか」
「おう、そうだった。あんたらの話にあてられて忘れるところだったぜ―――あんた、この間伊達政宗と話
したんだって、電話で?」
「あァ」
「覚えてるか?」
「覚えている」
からんとグラスの氷を揺らす。
元親はそりゃよかった、と笑う。
「猿飛は嫌がるだろうけどよう、政宗のほうはどうもあんたと会いたがってるみてえなんだよ。どうだ、一
遍会ってみねえか?猿飛に内緒なら構わねえだろ。あんたとあいつなら、結構合うと思うぜ」
そういう話もしたんだろう、と元親は続ける。
かげつなはおしまいまで話を聞いてから、すこし考えるように首を傾げ、それからその首を左右に振った。
「いや、止めておこう」
残念だが、と結ぶ。
元親の眉が、意外そうにひょいと上がった。
「へえ」
「猿飛が居るときに、家に来るのならいつでも歓迎すると伝えておいてくれるか」
「はあ、まあいいけどな―――ふうん」
「なんだ」
「いや、意外だね」
あんたもそういうこと気にするんだなと元親は面白そうに、下からかげつなの顔を覗き込んだ。かげつなは
元親のいろの薄い目を、ほおづえを突いて覗き返しながら、気にするさそれなりには、と肩を竦める。
あいつ相当嫌らしいからな。
「伊達政宗と俺が会うのが」
「らしいな」
「泣くだろ、多分。あいつに内緒で会ったら」
すくなくとも会社での佐助はそれくらい切羽詰まっていた。もっとも佐助は大抵かげつなの前では切羽詰ま
っているのだけれども、それにしても「伊達政宗」に関する佐助の過剰反応は他とは一線を画している。
泣くかもなあとたのしげに元親が頷く。
だろう、とかげつなも頷く。
「それは困る」
「へえ、困るのか」
「困るだろう」
「なんでまた?」
ひとの悪い笑みを浮かべる元親に、かげつなは不思議そうに首を傾げた。
困るに決まってんだろう、
「おまえは惚れた相手を泣かせてェのか?」
「―――、」
元親が黙り込む。
かげつなはグラスの水を飲み干した。通りかかったウエイトレスにアメリカンと、元親の分のコーヒーを追
加で注文する。佐助はどうせ夕方になるまで起きないだろう。今朝方まで「続き」は続いたのだ。三日ぶり
にしては手加減をしてやったほうだと、元親が黙っているのでつらつらとそんなことをかげつなは考える。
でも珍しく佐助が素直だったので、昨夜の交尾は良質ともに申し分なかった。もっともおかげで佐助は昼過
ぎになっても博物館のアンモナイトみたいにぴくりとも動かないけれども、かげつなには何の影響もないの
でまったく問題はない。
いつもああだといいんだが、と思っているところで元親が何か言った。
でもぼそぼそしていたのでよく聞こえなかった。
「なんだって?」
「いや、あんたさ」
「うん」
「結構、―――いやかなり、」
猿飛のこと、すきなんだな。
かげつなは目を瞬かせた。元親はなにか妙に神妙な顔をしている。
「なんだ、知らなかったのか?」
そう言うとますます元親の顔はおかしなことになった。
ウエイトレスの持って来たアメリカンを飲みながら、かげつなはそれに不思議そうにまた首を傾げた。
おわり
|
おまえがこれ書きたかっただけだろ?っていうツッコミは自分でしてるからいらないです。
夏ってエロの季節ですよねー。うんうん。ねー?(聞くな
いただいたかわいらしいイラスト二枚のお返しがこのエロ話とかどんだけ恩を仇で返してい
るのかという話ですが、私の愛の暴走ということで大目に見てお納めいただければさいわい
です、にしさま・・・!
空天
2009/08/06
ブラウザよりお戻り下さい。