「おや、お帰りなさい」 「あァ――――――戻ってきたのか」 「そうらしいね。お疲れさん」 「おまえのせいで散々な目にあった」 「そいつぁ失敬。でもま、なかなか愉快な経験を、ってちょっと殴るのは止してよ。やだなぁ」 「おまえは軽薄過ぎる」 「生憎性分でね。んん、そういやぁ」 「なんだ」 「あんた、ちいさい頃の俺に会って来たってことになるのか」 「――――――まァな」 「どうだい、可愛かったろう、ちいさい頃の俺様」 「時の流れが残酷だとしか言い様がねェな」 「そいつぁこっちの台詞だよ」 「なんだそりゃ」 「ちいさい頃のあんた、そりゃ可愛かったな。素直でさ、ちいちゃいの。俺様に縋っちゃってもうどうしてやろうかと 思ったくれぇでさぁ、ってだから殴るのは止めてってば」 「死ぬかもう一回餓鬼に戻るか、どっちが良い」 「いやだな右眼の旦那ったら稚児趣味?感心しないね」 「もう良い。話してるのが阿呆らしくなってきた」 「まあ、何事も諦めが肝心だよ」 「ところでさ」 「なんだ」 「あんたそれ、持ってるの」 「犬だ」 「見りゃ解る。なんでそんなもん持ってンの?」 「ん、――――――持ってみるか」 「いいよべつに。俺べつに犬すきじゃないし」 「そうか」 「でも」 「うん」 「見たことあるような気がしないでもないね。まあ犬なんてどれもおんなじだけど」 「そうかもな」 「む、含みのある発言」 「べつにそんなこたァ、ねェさ」 「飼うの?」 「あァ」 「ふうん。物好きだね」 「ねえ、右眼の旦那」 「うん」 「俺そろそろ帰るわ」 「そうか。帰れ帰れ。もう来んな」 「またそんなこと言っちゃって、俺が来ないとさみしいでしょ」 「誰の話だ。とっとと帰れ。そして二度と来るな」 「ふふん、言われなくても帰るよ。また来るけどな」 「すきにしろ」 「おや」 「なんだ」 「なんでもない。うん、――――――また来るよ」 「あァ」 「それじゃあね」 「おう」 「また、会いましょう」 おわり |