・・・妖怪だったりバイクだったりな佐助の巻・・・
畠中恵さんの「しゃばけ」シリーズより。 ・仁吉=佐助 ・吉野=小十郎 ・鈴様=伊達 という微妙なキャスティングで参りたいと思います(主人公が いない) ちょっとだけ設定を書いておくと、仁吉も吉野も妖怪で、吉野は千年前からある人間に恋をし続けています。 相手はもちろん人間なので死んでしまいますが、吉野とその相手は鈴を目印に、転生するたびにまた恋をしま す。仁吉はそれをずっと横で見ています。 あと何年かな、と佐助は言う。 小十郎はそれには応えず足下に転がっている男の死体をただ眺めている。整っていた顔は血でどろどろに汚れ 、粋にあつらえた着流しは泥にまみれて見る影もない。佐助は突っ立っている小十郎の横を通り過ぎ、その死 体を蹴る。ごろん、と死体は仰向けになり、そのときにしゃらんと鈴の音がした。 小十郎の体がぴくりと揺れる。 「片倉さん」 佐助はやさしく小十郎の名前を呼ぶ。 小十郎はゆっくりと顔をあげた。そしてひどく疲れたような声で言う。 「・・・政宗様、は」 「うん」 「もう居ないのか」 佐助はそうだね、と頷いた。 かなしい、と問うと、小十郎はすこしだけ視線を彷徨わせてからちいさく頷いた。 小十郎は、もう千年も前から政宗を探して生き続けている。 佐助も小十郎も妖怪である。 だから寿命が笑えるほどに長い。佐助はもう、じぶんが一体いつから生きているかなど忘れてしまった。小十 郎もそうだろう。ただ、佐助が小十郎と出会ったのは、千二百年ほど前のことだったと思う。小十郎にそのこ とを聞くと、いつもそんな昔のことはどうでもいいだろうと笑われる。 佐助はそのたび、 「じゃあなんであんたは千年間おんなじ相手を探すのさ」 ということばを、飲み込む。 千年前、人間としての寿命を終えようとしている政宗に、小十郎はひとつの鈴を手渡した。これさえ持ってい れば、必ずじぶんが探しだし、また会いに行くから、と。政宗はそれを受け取り、そして死んだ。 それから千年、この茶番は続いている。 しゃらん、という鈴の音だけを頼りに小十郎は政宗を探す。探し、見つけ、出会い、そしてまた政宗の死まで 共に生きる。佐助はいつだって笑い飛ばしてやりたくてしかたがない。だってどんなにふたりが思い合ったと ことで、何度巡り会ったところで、結局政宗は死ぬのだ。もう佐助は十は政宗の死を見た。そのたびに小十郎 は律儀にこの世の終わりのような顔をする。 佐助はそれを、何度も何度も見せつけられている。 「馬鹿だと思うか」 ぽつり、と小十郎がこぼした。 佐助は何も言わずに足下の死体を見た。もちろんこの死体は政宗ではない。だが、この男は鈴を持っていた。 それは政宗が持っていたものであり、男は政宗を殺してそれを手に入れた。転生するたびにひとの見目は変化 する。小十郎はだから、鈴の音しか政宗を見分ける手を持たぬ。 あまりに政宗と違う男を、問い詰めてそして亡き者にしたのは佐助だった。 馬鹿だと思うか、とまた小十郎が問うので、今度は佐助も頷いた。 小十郎はそれに苦く笑う。 「そうだねェ、物好きだとは思うかな」 「おまえも、だな」 「ん?」 「いいんだぜ」 もう付き合わないで。 小十郎は静かにそう言う。 政宗はもう今生には存在しない。だが、またいつかには転生するだろう。十年後か、百年後か、それは誰にも 測れることではないが。小十郎は、それを待つのだろう。 佐助は小十郎の横顔から、空へと目を移した。 曇った空には月はおろか星すらない。そうだね。佐助はすこし笑った。俺も物好きなんだよ。 「だから付き合いますよーっと」 「・・・いいっつってんだろ」 「俺様が居なきゃ、あんたがあんまりさみしいじゃない」 佐助は笑いながら、ぽんぽんと小十郎の背中を叩く。 小十郎もかすかに笑う。すまねぇ、とすこし頭を下げる小十郎に、佐助はけらけら笑ってらしくない、と茶化 した。 茶化さなければ、泣いてしまいそうだった。 (いいよ、居てあげる) 俺を見ないあんたの隣に。 顔をあげた小十郎に、佐助はやはりにっこりと笑いかけた。 「仁吉のおもいびと」より設定のみですが。 BASARAにはまった当初よりこのキャスティングでもえておりました。 佐助がとたとたと廊下を歩いていたら、襖の向こう側からおかしな音がした。 ん、と立ち止まって耳を寄せる。音、というよりは声のようだった。ぎゃわぎゃわという鳴き声にはとてもよく聞き覚えがある。 (幸村か) 幸村も、佐助と小十郎とおなじく妖怪である。 だがふたりのような高等の妖怪とは違い、おそらくは生きている年月もそう大したことはない。佐助と小十郎が新たに住み着いたこ の家屋から沸いて出てきたほんの赤子のようなあやかしである。変に懐かれてしまったので、追い出すこともためらわれて半ば同居 人のようなことになっている。 襖の向こうは小十郎の居室だった。 伊達政宗に会い損ねてから小十郎はひどく沈んでいる。もちろん一見すればわからぬ。が、千年以上ともに居る佐助にはわかりたく なくともわからざるをえない。時折、外の景色にぼうと魅入っていたり、佐助の話を聞いていなかったり、そんな些細なことではあ るけれど、その一々は佐助の頭を鈍器で殴るように痛ませた。 佐助にとっては政宗が居るときが一番らくだ。すくなくとも小十郎はしあわせそうに笑っている。政宗の居ないときの小十郎は、能 面のように無表情でそれを見るたび佐助はなきたくなるのだ。 だから、幸村が襖のむこうに居ると判ったとき佐助はひどく焦った。ほうっておいてやりたいのだ。せめて静かな場所にあの男を置 いてやりたいのだ。 「ちょいと失礼」 がらりと襖を開く。 幸村をつまみ出そうとして足を踏み入れた佐助は、ぱちくりとそおまま目をまたたかせた。座敷に座っていた小十郎は顔をひきつら せ、さ、と袖になにかを隠す。 「なんだ、いきなり。声をかけてから襖は開けるもんだ」 「そりゃ、すいませんねえ。つーかさ、ちょっと、あんた今なに隠したよ」 「・・・なにも隠してなんぞいねェ」 小十郎の視線が庭に飛ぶ。 佐助は目を細め、へえ、と笑う。それからつかつかと小十郎に近づき、その袖をばさりと開いた。 「あ」 ばらばら、と。 畳に散らばったのはきらきらと白い、ちいさな塊である。佐助はひとつそれを摘み、口に入れる。甘い。金平糖だ。小十郎を見ると 顔を完全に背けている。わるいとは思っているらしい。 「片倉さん。俺言ったよねえ」 「・・・なにを」 「幸村にやる金平糖は、一日いつつまでだっつったでしょーが」 「あいつが欲しがるからやっただけだ」 「そーれーがーだーめーなーのー!」 佐助が小十郎を睨み付けると、小十郎の腰のあたりからこそこそと幸村がニ三匹這い出てくる。佐助はそのちょろちょろとした後ろ 髪をひっつかんで、ぽいと縁側に投げた。ぷち、と潰れた音がする。 「おい」 小十郎がすこし怒ったような声で佐助を呼ぶ。 佐助は何食わぬ顔であごを縁側のほうへ杓った。潰れた幸村はひょこひょことひとりで立ち上がり、あたりに散らばった金平糖をふ たつほど抱えてたたたた、と縁側を駆けていく。小十郎はそれを見て、すこし目を丸くしてからちいさくくつくつと笑った。 (あ) 佐助は小十郎をじいと見る。 見られていることに気づいた小十郎は不振気になんだ、と佐助に問うた。佐助は首を振ってなにも、と言う。 言いながら、あとで幸村たちにそれぞれ金平糖を多く食べさせてやろうとすこしだけ佐助は笑った。 同設定で。もはやオリジナル。 メルフォで提案いただいた、「幸村=家鳴」があまりにかわいかったので調子こいてやってしまいました。 時雨沢恵一さんの「キノの旅」シリーズより。 ・キノ=小十郎 ・エルメス=佐助 という最早原型がわかりません先生、というキャスティングで参りたいと思います。 知らない方の為に設定の説明ですが、キノはエルメスに乗って旅をする旅人です。エルメスはモトラドという名前の、 まあ、バイクです(ええええ)キノはパースエイダーという銃の名手で、訪れた国に三日間だけ滞在することをルール にしています。エルメスは普通にしゃべれます。バイクですが。 起こして、と佐助が言った。 小十郎はそれには応えず、足元に転がっている拳大の石をブーツで蹴った。それはごろん、と一度だけ回転して止まる。 しょうがない。小十郎が言う。これはでかいからしょうがない。 小十郎が石の上を走らせたせいで、哀れ転倒したままの佐助が呆れかえって息を吐く。 「あんたがこんな悪い道選ぶからでしょーが」 「俺は悪くねェ」 「へったくそなんだからへったくそなりの道を行けよ」 佐助ははん、と笑う。 倒れたモトラドを見ながら、小十郎はその切れ長の目をすうと細めた。 「・・・次の国に着いたら」 「うん?」 「スクラップにして携帯食料に換えてやろうか」 「ごめんなさいすいません起こしてください」 まわりは泥土だった。 小十郎は佐助が倒れたしゅんかんに咄嗟に飛び降りたので、そこまで衣服は汚れてはいない。代わりに誰からのフォロ ーも無かった佐助のボディは泥まみれになっている。あーあ。佐助が息を吐く。きたないなあ。 文句がうるさいモトラドから、小十郎は視線を今まで来た道へと向けた。延々と地平線までカーキ色の大地が広がって いる。真っ青な空とその大地は、まるで絵本かなにかの一ページのように作り物めいて見えた。 そもそもさ。倒れたままの佐助が言う。 「ほんとにこっちであってんの」 「他のルートだと四日かかるが、こっちだと半日で行ける」 「だからそれどこ情報よ」 「旅人情報」 「・・・うさんくせー」 「うるせェ。放置してやろうかこのポンコツが」 「そしたらあんただって徒歩だぜ。・・・つーか駄目でしょ。そういう道とっちゃ」 「あぁ?」 「磯を買うなら舞え、って言うじゃん」 小十郎はすこし考えてから、言った。 「・・・・『急がば回れ』?」 「そーそれ」 佐助のボディを黙って小十郎は蹴る。 おまえわざとやってんだろ、と言うと佐助はなにが、と惚ける。 「とりあえず」 佐助を起こしながら小十郎はつぶやいた。 「国に着いたら修理だな」 「そうだねぇ。どっかの人の乱暴な運転で俺様のボディはずたずただよ」 「そのまえに」 「うん」 「ブレーキが壊れてやがる」 「どーやって止まるのさ、それ」 佐助のことばに小十郎はすこし黙る。 それから言った。まあなんとかなるだろう。そう、とだけ佐助は言う。小十郎はシートの泥を気休め程度に払い、跨っ た。エンジンをいれると、佐助の体がぶるぶると震える。 がたがたと安定の悪い道を走り出しながら、小十郎は延々と続くカーキ色に眉をひそめた。佐助が小十郎に次の国はど んな国かねえ、と問う。小十郎は眉間にしわを寄せたまま言う。 「・・・多くは望まねェ」 「ほうほう」 「とりあえず別の色が見てェ。目が死にそうだ」 「飽きたねえ。ちゃいろちゃいろちゃいろだもんなあ」 「あと出来ればうまくて安い飯とやわらかいベッドとシャワーのある安いホテルがあれば言う事はない」 「めちゃくちゃ多くを望んでらっしゃいますよね」 「こんだけ苦労してる。それ相応じゃねェとつりあわん」 相変わらず目の前は泥土と、時折枯れた木々が目に入るだけだ。 がたごととモトラドを揺らしながら小十郎は走る。そのうち太陽がかげってきて、カーキ色は空の色に染まって紫にな った。ようやくそのころになって、地平線にちらちらと灯りがあるのが見えた。 国だね、と佐助が言うので小十郎は頷く。 「ようやくだ」 「とりあえずまあまずは」 どうやって止まろうか、と佐助が言った。 小十郎はすこし黙って、それからまあなんとかなるだろうと応えた。 設定のみです。 エルメスは佐助っぽいと思います。キノは全然ちゃいますが。 拍手ぷらす日記でちょこちょこ書いたものパート2。 巷説との温度の違いが私の原作へのもえの温度の差を物語ってあまりあります。 2007/02/20 空天 ブラウザよりお戻り下さい。 |