・・・君が雀だった頃・・・
※裏の「さるとびくんとかげつなたん」シリーズ前提でお願いします。 佐助がその日起きると、窓の外に大量の雀が居た。 「うわ」 思わず体を引く。 窓際の棚の上の鳥かごに入っているかげつなが、がしゃがしゃと鳥かごを揺らしている。佐助は近寄って大量 の雀の理由を聞いた。かげつなは首を傾げながら、 『そのまえに出せ』 とがしゃがしゃとまた鳥かごを揺らす。 朝の5時である。佐助は仕方なく鳥かごを開いた。かげつなはばさばさと飛び立ち、窓の近くに降り立つ。する と窓の近くで飛んでいた雀たちが一斉にかげつなの元へと降り立ってきた。ちゅんちゅんとけたたましい鳴き声が朝のマ ンションにこだまする。佐助はおとなりさんのことを思ってはらはらするが、もちろんそんなことは雀たちには関係ない。 一羽の雀がかげつなに鳴きかける。 ガラス越しなので佐助にはその声は聞こえない。が、かげつなはこくりと頷き、 『・・・そいつァ、まずいな』 とシリアスに鳴いた。 なにやらただならぬ雰囲気に佐助は四つんばいでずりずりと窓に寄る。ぴたりと窓ガラスに耳を当てると、かすかに雀た ちの声が聞こえた。ちゅんちゅん。 『かげつなさん、なんとかしてください』 『俺たちではもう、あいつらはどうしようもねえ!』 『特にあのしげはるとかいう野郎・・・まともじゃない』 雀たちは口々(嘴嘴?)に窮状を訴えている。 かげつなは目を閉じてそれを聞いていたが、雀たちの声が鳴りやむとすうと目を開いた。 そして一喝する。 『てめェらア!!』 びくうっ 雀たちは身を竦ませた。ついでに佐助も竦ませた。 かげつなは言う。なにをなさけないことをいってるのか。 『そもそも俺は引退したんだ。そんな奴に頼ろうと思うところから腑抜けてやがる』 「え、かげつなたん引退したの?つーか引退?なんの現役だったの?」 『てめェの尻はてめェで拭えといつも言ってんだろうが』 『でもかげつなさん・・・っ!あの鳩の野郎共、俺たちの十倍は体でけェんですぜ!』 『そうですよ、とても敵わねえ!』 『・・・ちっ、高々鳩でこの泣き言か?やれやれ、雀の未来は暗ェな・・・』 遠い目で雀の未来を案じるかげつなに、佐助は言う。 「でも、鳩はきつくね?」 鳩はでかい。 雀たちの言うように十倍の大きさがあるし、そもそもあいつらは数が多い。 佐助のことばに窓の外の雀たちも一斉に頷く。かげつなはちらりと佐助を見た。そしてふわりと胸の部分の羽根を膨らま せる。阿呆が。 『俺は鴉レベルでなけりゃ、敵とは認めねェ』 ふん、とそっぽを向くかげつなに、佐助はああと頷いた。 そういえばこの雀は、はじめて会ったときに鴉を亡き者にしていたのだった。 窓の外の雀たちはそんなかげつなにおおおーと歓声をあげる。さすが鴉殺しのかげつなだぜ、という声が聞こえる。そん な通り名があんのか、かっこいいな!と佐助が惚れ直していると、かげつながこちらを向いてちゅん、と鳴いた。 『猿飛』 「え、なに」 『・・・俺ァ、今からちょいとこいつらの尻ぬぐいに出かけてくるが、いいな』 『かげつなさん!』 『流石です!』 『ああ、また牙突が見れるんですね!』 『うるせェ!!他人に頼るてめェの不甲斐なさをちったァ恥じやがれ!』 『『うすっ!』』 声を揃えて鳴く雀たちに、佐助はすすす、と身をひく。 なんでこんなに体育会系なんだろう。怖い。なんか暑苦しい。こんなところにかげつなを放り込んで大丈夫だろうか、い やもちろん佐助の雀は誰より強いのでなんにも心配することはないのだが。なんかこの暑苦しさを吸収してこないだろう か。そんなのいやだ。 佐助がうんうん唸っていると、かげつながだだだだだだっと膝を突いてきた。 「いってぇ!」 『阿呆が』 「なにすんの!」 『てめェは俺を黙って送り出せばいいんだよ』 「でも、鳩だよ?しかもいっぱい居るんでしょ。怪我折角治ったばっかなのにさあ・・・」 ぶつぶつ呟く佐助に、かげつなはこくんと首を傾げ、 『俺が、負けるとでも?』 ちゅん、と鳴いた。 思わず佐助は胸を押さえた。きゅんきゅんする。 ーーーーーーーーーーーーーーーなんて格好いいんだ! 佐助は頷いた。頷いて窓を開く。秋の冷たい空気が部屋のなかに吹き込んでくる。かげつなはすこし目を細め、それから ばさばさと飛んだ。それを他の雀たちが大きな歓声で迎える。 まだ朝日が昇っていない空へと飛び立つ前に、かげつなはちらりと佐助を振り返り、 『昼までには帰る』 昼飯は用意しておけ、と言う。 佐助はものすごいときめきに耐えながら、こくりと頷いた。 雀たちのイメージは伊達軍で。 かげつなたんは雀のなかでもてもてなので、佐助は恨まれればいいと思います。 多勢に無勢だった。 かげつなはぷ、と血を吐く。周りには仲間の雀たちの体が転がっているが、まだひくひくとうごめいているところを見る と死んではいない。すこしだけ其処に視線をやって、それからまた上を向き、体を宙に浮かした。その先には鴉が五六羽 、その大きな羽根を羽ばたかせて待ちかまえている。 『・・・丁度良いハンデだ』 くつりと笑う。 それから飛び込んできた一羽の鴉を避けて、その足の部分を鋭く突く。鴉は大きく咆吼を上げたあと、重力に従って落ち ていく。それを見届けたあと更に襲い来る鴉を二羽かわすが、その二羽を避けるのに必死でかげつなは正面を見ていなか った。そこから、かげつなの体ほどもある大きさの嘴がかげつなを捕らえた。 気づいたときには既に目前まで鴉の嘴が迫っている。 『・・・・っ』 やられる。 かげつなはそう思って、目を閉じて降りかかるであろう痛みに備えた。 『・・・?』 しかし痛みはやって来ない。 かげつなはそ、と目を開く。そこに先ほどまで居た鴉は居なかった。 まだ空中に止まっている四羽の鴉も、かげつなではなく地上へ目をやっている。それにならってかげつなも下に視線を落 とした。 そこには先ほどかげつなが落とした鴉が一羽、今までかげつなを襲おうとしていた鴉が一羽。 そして、 「・・・HeyHey,多勢に無勢たァCoolじゃないねェ」 黒スーツの男がひとり。 よく見ると男のかたわらには持っていたのだと思われる革の鞄が落ちている。どうやらそれを先ほどかげつなに襲いかか ろうとしていた鴉に投げつけたらしい。しかしその程度で鴉が意識を失うわけもなく、また羽根を羽ばたかそうとするそ れを、男は足で踏みつける。 鴉が高い鳴き声をあげた。 「Han!おねんねしてりゃあこれで済ませてやったのによォ」 嘲笑う男はスーツをばさりと脱いで近くの鉄棒にかける。 そしてちょいちょいと指で鴉たちを招く。かげつなには傍らの鴉たちが一気に殺気だったのがわかった。一斉に男へと急 降下する鴉たちに、しかし男は余裕の表情を崩さない。 二羽同時に襲ってくる鴉を、男は頭を下げて避け、それから羽根を掴んで地面にたたき落とす。がき、と骨の砕ける音が して、鴉たちは大きく鳴いた。更に一羽が男の額目がけて嘴を突き刺そうとするが、逆に男はその嘴を掴んで横に振り払 う。 男はそれで全てを終わらせたと思ったらしく、かすかに笑みを唇に浮かべた。 しかしまだ鴉は一羽残っている。 男はそれに気づいていない。 男の背後から最後の一羽が迫ってきているのを見て、かげつなはそこへ突っ込んだ。そして首元を思い切り嘴で突き、地 面へと押しつける。高くあがった鴉の断末魔に、男は振り返り目を見開いた。口笛を吹く。 「・・・Unbiliebable、おまえがやったのか?」 男の声に、かげつなは頷いた。 男はしばらく目をぱちくりと瞬かせたあと、ちいさく笑う。 「It's Wonderful!! Coolな雀も居たもんだぜ、おまえなかなか見所があるな!」 かげつなはおまえもなかなかやるな、と鳴く。もちろん男にはなにを言ってるのか解らない。だが男は納得したように何 度か頷いて、そしてかげつなの頭を撫でた。 それからにい、と笑う。 かげつなはその男の目ーーー片方は眼帯で覆われていたーーーがうっすらと細くなるのを見て、胸の奥のほうになにか熱 いものがこみ上げてくるのを感じた。 しかしそのまま男は去っていってしまって、もちろん名前を問うこともかげつなにはかなわない。去っていく男の後ろ姿 を見ながら、かげつなはまぶしげに目を細めた。 『・・・・ということが、あった』 「・・・・・」 『まさかおまえの同僚とはな。世間はせめェ』 「・・・・・龍の旦那と、へー」 『一度礼を言いたいと思ってた。今度家に連れてこい』 「・・・・・あー、無理」 『なんでだ』 「龍の旦那忙しいんだよーだからたぶん無理だなあ」 かげつなは残念そうに首を傾げる。 『そうか・・・じゃあ仕方ねェ』 「だねーほんとにねーいやあ残念だなー」 佐助は笑いながらぱたん、とアルバムを閉じる。 そして書斎の奥深く、もう二度と誰も手が届かなくなるような場所にしまい込んだ。 猿飛さんの嫉妬により今後伊達との接触は一切禁じられます。 かげつなたんの初恋の人は伊達というオハナシ。 テスト期間中にも関わらず更新しちゃった雀DAYに拍手でした。 すっかり本編の方ではおっさんなので、雀なかげつなたんが大変好評でしたが戻す気はございません(笑顔)。 2007/03/21 空天 ブラウザよりお戻り下さい。 |