夜 色 遊 戯
もう東の空が白んできている。
佐助はまわりの空気が身に纏う装束よりあわくなる前に、と闇色の口布を鼻先まで引き上げた。腰掛けていた枝をすこし強めに
握りしめ、そのまま体を前に倒して一回転、すたんと枝の上に立つ。それから腕を空に差し伸べた。
ばさばさと羽ばたいてくる鴉に、佐助ははあと息を吐く。口布に覆われた口から出た空気は、白く残ることなく消えた。
「さぁて」
鴉が腕に止まる。その足につかまって、佐助はふわりと宙に浮いた。
目指すは川の向こうの上杉の陣営だ。伏兵の存在を知らされた幸村の命が降ったのが二刻前で、すでに丑三つ時も過ぎきってい
たがしのびには時間など関係ない。真田の忍隊を収集した佐助はおしごとおしごと、と呟きながら味方の陣を飛び越えて川岸へ
降り立つ。
夜の川は黒い。
辛うじて月のひかりできら、きら、と水がひかっている。
佐助は砂利をひとつ蹴り飛ばして、あたりを見渡す。すこし早く来すぎたらしい。まだ忍隊の部下は来ておらず、夜半の川辺は
ちらちらと流れる水の音だけしか奏でていない。佐助は近くの林に入って大木に身を寄せた。空を見上げる。月がまんまるくて
あんまりひかりすぎるので星があまり見えない。
佐助は口布を下ろして長い息を吐く。今度は息は白く残ってけれどすぐに消えた。
(これが終わったら、明日でとりあえずおしまいかね)
勝つにせよ負けるにせよ。
そうしたら、と佐助は思う。帰るのだ。佐助は甲斐に。
そしてあの男は奥州に。
またひとつ息を吐く。白い。
こたびの戦は伊達と武田の共同戦線だった。いつも争ってばかりの真田幸村と伊達政宗がはたして同盟が組めるのかと佐助はは
らはらしていたのだが、そこは一国を預かっている将同士と言ったところかなんの問題もなく、むしろ好敵手同士たがいをいい
意味で意識しあっているように見える。なんにせよ、と佐助は安堵した。問題がおこらないことが第一だ。
たぶんあの男もそう思っているのだろうと佐助は空を見上げながら思う。
空は墨を撒き散らしたように真っ黒で、どうしたってあの眼を思わせて癪だった。
わかっていたことだが、と佐助は眼を細める。
武田と伊達が同盟を組み、陣を同じくしたことで見たくもないものが見えてひどくうっとうしい。ああなんだってあのふたりは
あんなに引っ付いている必要があるのか。ないだろう。全くない。ないに決まってる。
伊達の本陣を木にぶら下がりながら眺めて、佐助は何度目かのためいきを吐いた。まるで好きこのんで覗いているようだが、も
ちろん佐助にそんな趣味はない。たとえ同盟を組んだとは言え、元を正せばながいあいだの交戦状態にあった間柄なのだからど
れだけ用心をしたところで過ぎるということはないというところだ。
しかし、と思う。仕事が選べるなら是非とも遠慮したい仕事だ。その片割れが情人であるかないかというのは脇に置いておいて
も、ひとが延々いちゃついているのを見ているなんてどんな拷問だろう。阿呆くさくてやっていられない。
引っ付いているのは一見、主の政宗だけに見える。
政宗がまるで子どもが母親を求めるように家老の片倉小十郎にまとわりつき、それを小十郎は時に容認し時としては突き放すこ
とすらある。まさむねさまそのようなすがたではしめしがつきませぬ。
だが。ぶらぶらと木に足を引っかけて揺れながら佐助は冷たい目で伊達の本陣を眺める。板戸のうえに兵の分布図を広げながら
政宗がなにやらちかくの将に話しかけている。小十郎はそこからすこし離れた場所で立って、政宗を見ている。政宗が将相手に
笑い、ふざけあって、そして熱く語りかけているのをただ黙って見ている。
(まったくねえ)
見ていられない、と佐助は首を振った。
小十郎は伊達家の家老であると同時に軍師だ。だから政宗が無闇に軍略などふりかざすより余程正しい道を指し示すことができ
るのに小十郎はなにも言わぬ。小十郎は政宗が正しくても誤っていても、まずは主が選んだ道を歩かせる。突き放すようでいて
ほんとうはどんな方法より正確に政宗を大きくさせている。
それをきっと、計算でもなんでもなく本能でやってしまっている小十郎にはほとんど呆れるより、賞賛したい気持ちになる。絶
対しねーけどなふーん、と思いながら佐助はすたん、と地面に降りた。政宗が本陣から出て行くのが見えた。おそらくは野営の
おのれの寝所に戻るのだろう。小十郎だけが、残っているようだった。
佐助はそこへすたすたとわざと音を立てながら向かう。
陣幕をばさりと上げて入り込んでいくと、小十郎と目があった。
「遅くまでおつかれさまー」
ひらひらと手を振って笑うと、小十郎はああ、と短く返事をする。
それで終わりだ。
小十郎の視線はそのまま分布図に落とされ、佐助のほうへは向けられない。わざとらしく息を吐いてみるもやはり小十郎は不動
の姿勢でひたすらに分布図を眺めている。最近の戦況は思わしくない。上杉の伏兵があらゆるところで伊達と武田の連合軍の足
なみを崩しているのが主な原因だった。
動かない小十郎をいいことに、佐助は真横まで近づいてじいとその顔をのぞきこむ。もともと常に仏頂面の凶悪な顔だが、それ
が目の下に刻まれた隈でさらに助長されている。あーあ、と佐助は胸のなかのほうでこぼした。ますます怖い顔になっちゃって
まあ。
「片倉の旦那」
「なんだ」
「疲れてるね」
「べつに」
「疲れてるでしょーが。顔、怖いぜ?ますます老けてみえるわ」
「おまえは死にに来たのか此処に」
「まっさかあ」
笑いながらまた小十郎の顔をのぞきこむ。今度は目があった。
小十郎はひどく面倒くさげな顔をしている。それから言った。おまえだって酷い顔だ。佐助はそれに特になんの感情も湧かすこ
ともなく、そりゃあね、とだけ返す。
「俺様だっていそがしーですから」
「だったら俺にちょっかい出すくらいなら寝てりゃあいい」
「んーん、わかってないなあ」
佐助は笑う。
陣幕のなかには佐助と小十郎しかもはや存在していない。
「いそがしーから、あんたに会いに来たんでしょ」
だからすこし悪戯心が佐助をくすぐった。
陣内で、もしかしたら今このしゅんかんにも誰かが此処に来るやもしれぬ。そんな中で小十郎の陣羽織をくいくいと引くのはひ
どくたのしい。見られたら、と思うと逆におかしい。だって困るのは名も無きしのびの佐助ではなくて立派な肩書きを背負った
小十郎なのだ。
小十郎が困るところなど見たことがない。見たいなあと佐助は純粋に思った。なのでうっとうしげに小十郎が佐助の手を払った
あともなおたのしげに笑いながら続ける。ねえねえ。
「俺も仕事がんばってるよ、旦那とおんなじくらい」
「・・・あぁ?」
「で、これからもっとがんばんないと駄目じゃん?だからさ」
手を伸ばす。
そして小十郎のほおにそれを添えて、くい、とおのれのほうに向けさせた。すこし驚いたように眼をまるくしている小十郎に佐
助はたのしくて仕方ない、というふうに目を思い切り細めて笑う。くん、とつま先に体重を掛けた。
「ちょっとほきゅーね」
そう言って、ちゅ、と。
佐助は小十郎のほおに軽くくちづけた。
そしてすい、と離れる。
小十郎はぼうと静止している。それからほおに手をやって、ようやっと佐助を見た。
まだ目がまるくて、佐助は思わず笑ってしまう。へんなかお。けらけらという佐助の笑い声に小十郎はすう、と目を細め、佐助
を呼んだ。
「おい、しのび」
それに佐助はへらへらと応える。はあいなんでしょ。
小十郎はちょいちょいと手で佐助を招く。佐助はとことことそれに従って小十郎に寄った。あれこれはもしかした旦那もその気
かなあ、と思いつつ、にやにやと笑みを顔に浮かべながら小十郎の前に立つ。床几に座っている小十郎は無表情のままに佐助を
見上げている。
小十郎は佐助のふわふわとした赤毛に手を伸ばし、てのひらでそれを覆う。大きなてのひらの感触に佐助は目を閉じた。小十郎
が髪をさわったりするのが佐助はすきだ。思わず褥のなかのようなきぶんになる。
小十郎はそんな佐助を見ながら言う。
「補給ってなァ」
「ん」
「今のがか」
「そ」
「違うだろ」
ぐい、と小十郎がてのひらに力を込める。
佐助の体の重心がずれて足下がふらつく。うお、と体の軸を直してみると、目と鼻の先に小十郎の顔があった。うわあと佐助は
すこし慌てた。何度見ても迫力のある顔だ。きらいではないが慣れない。
小十郎はじいと至近距離で佐助を見据えたまま言う。そこじゃあねえだろう。
「おまえが接吻するのは」
「え」
「ここじゃあるまい」
そう言って更にてのひらに力を込める。
おお旦那がやる気だ・・・と佐助は挑戦的な小十郎のことばにすこしほおを赤らめながらつい、と口角をあげる。じゃあどこに
俺はくちづければいいのかなあ、と笑うと、小十郎は静かに言った。
「教えてやる」
そして腕をぐい、と引き寄せ、
そのまま佐助の顔を地面に叩きつけた。
「ぶっ」
佐助の鼻先が思い切り地面にぶつかる。
小十郎は無表情のまま佐助の後頭部をしばらく見て、それからまた分布図を手にとって眺め始める。かたわらの筆でなにか書き
とめたりしている。鼻先を押さえたまま佐助は恨めしげにそれを見上げた。
「ちょっと!」
起き上がった佐助が叫ぶが小十郎は視線すら寄越さない。
「まだなんか用か」
「用か、じゃねーよ!なにいきなり!なんで俺が土と接吻せにゃならんのよ!!」
「なに、なかなか似合いだ」
「土と似合いって俺は野菜!?」
「阿呆。一緒にするなおまえと野菜を」
野菜に失礼だろう、と小十郎は言う。
どれだけ野菜好きだこの男、と佐助はことばを失う。主より大事にされていないことなんて知っているがまさか野菜より佐助の
地位はひくいのだろうか。言ってみようかと思ったがあり得そうで追求しかねる。
小十郎はすうと佐助に視線を合わせ、低く言った。
「戦場で馴れ合うつもりはねェ」
ばさり、と分布図がたたまれる。
小十郎はそれをくるくると丸めて、脇に抱える。そして佐助に一瞥も加えずに陣幕を払って出て行った。
残された佐助は座り込んだまま息を吐く。
まったくつれない男だ。
「・・・・・・・いーじゃん、折角まいにち会えんだからさあ」
べつに馴れ合うつもりではない。
ないけれど、でも少しくらい浮かれたって良さそうなものだ。だって小十郎と佐助はなんだかんだ言っても情を交わす仲で、だ
が普段の逢瀬はひどく少なく短い。体を合わせたらそれで仕舞だ。翌朝には佐助は甲斐に帰るので、なにかを話す時間やたわい
のない戯れの時間などかけらもない。
(まあ当然なんだけどさ)
あまやかな関係ではないから、睦言や無意味な触れあいを望むことはないけれど。
佐助はあーあ、と空を見上げながら細長い声を出す。明日は風が強いのだろう。無闇に星がきらきらとひかっている。
望まないけれど、小十郎とのそれがどんなふうかを佐助はすこし知りたかった。
(しかしなんもなかったなあ)
空を見上げながら佐助は思う。
他のしのびはまだ来ない。
土のにおいをこれでもかと味あわされてからひとつき。佐助と小十郎のあいだには何も起こらないままにおそらくは明日かその
翌日かにすべての戦の決着はつく。そうしたらまた日常が戻ってきて、また佐助は奥州へと赴いたりもするのだろうけれど、今
のように毎日小十郎の顔を見ることはなくなる。
さみしくはないが惜しい気はした。
そのとき、かつん、と。
小石を蹴るような音がして佐助は振り返る。手はすでに腰の手裏剣にかかっている。
忍隊ではない。足音をさせるような間抜けはいないはずだ。
木に隠れながら音をしたほうを伺う。またじゃり、と今度は砂利を踏む音がする。それからぽちゃん、と水音がした。石を川に
投げ込んだ音だろうか。佐助は首を傾げる。こんな時間にたわむれめいたことをするなどどんな粋人だ。いや暇人か。
ひょいと顔を出して見てみる。
(あ)
暗がりのなか、やけに大きなかげが見えて佐助は息を飲んだ。
あれ、は。
「片倉の旦那」
林から出てかげへ近づく。かげが振り返る。
やはりそれは小十郎だった。
「どしたのこんな時間に」
駆け寄りながら問うと、小十郎は静かに言う。
「余計なことを」
「うん?」
「しにきちまった。悪いが」
「どういう意味」
「おまえらを信用してねェわけじゃあないが。
・・・今度の指令はこの戦の要だ。重々気をつけてもらいたい」
特に伏兵には上杉のしのびも多く居る、と小十郎は言った。
佐助はぽかんと目をまるめて、それからそれをくしゃりと笑みの形に崩した。おそらくは伏兵にはかすがもいるのだろうと思っ
たが、あまり気にならなかった。あのくのいちとの命をかけたたわむれはきらいではない。
それより佐助は目の前の男がおかしくて仕様がない。
笑ったまま息を吐く。
「やれやれ」
「なんだ」
「あんたもほんとに難儀なおかただ。
よほど龍の旦那が心配かねえ。あれだけ信用しておいておかしなはなしだこと」
佐助の掃除する予定の伏兵は、おもに伊達が攻め入る範囲に存在している。
首をすくめておどけると、小十郎は間髪入れずに返してきた。
「心配だ」
悪いか、と小十郎は言う。
佐助はへらりと笑う。そうだろうともと思う。それでこそ片倉小十郎だと思う。
暗がりではよく見えぬけれど、きっとまだその顔には疲労が刻まれていて、明日はこの男も戦に出るのだろうに、今この時間に
この男は当然のように此処にいる。
あーあ、と佐助はこぼす。
嫉妬するのも阿呆らしい。
それでもやはり癪なので、佐助は口布を引き下げて笑っているところを見せつけてやる。小十郎はすこしだけ嫌そうな顔をした。
過保護なおのれに多少なりとも自覚はあるのだろう。
けらけら笑いながら佐助は小十郎に言ってやる。
「ねーねー、じゃあさ」
「あぁ?」
「俺様あんたの主どのの為にもがんばるからさ」
「当たりまえだろうが」
「や、だからもっとがんばっちゃうからさー」
そう言うと小十郎は最初から全力でやれ、と睨んでくる。おおこわい。
佐助はへらへら笑ったままそれを無視する。
「だから、ね」
「早く用件を言え」
「補給、したいんだけど」
あんたを。
そうやって思い切り笑うと、小十郎は呆れたように目を細める。おおすごいばかにしためだなあ、と佐助はたのしくて仕方のな
いきもちになった。小十郎のこういう顔はとてもすきだ。
「いいよねえ」
小十郎があきらめたように息を吐く。
それを合図に佐助は伸び上がって小十郎のほおにくちづけた。ちゅ、としずかな川辺に肌がふれあう音がいやに大きく響く。佐
助はひょいと体を戻して小十郎の顔を見る。小十郎は無表情のまま佐助を見ている。
ぽつり、と小十郎が言った。
「あれでいいのか」
「え」
「補給」
「え、うん。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ちょ、おいまーさか」
佐助は身構える。
また土と接吻させる気だろうかこの男はなんてこと、と臨戦態勢をとってすこし小十郎から離れようとする。
そこで腕を取られた。
え、え、とあわてる佐助に小十郎はそのままぐい、と佐助を引き寄せ、顔を近づける。
そして言った。
「どうせならもっと足していけ」
そのまま佐助の口におのれのそれを重ねる。
「・・・・っ」
佐助は息を飲んだ。突然のことに唇をかたく結ぶが、小十郎はそこをゆっくりと舌でなぞりはじめる。熱い軟体物が佐助の下唇
をつついたりなぜたりする感触に身が震えた。ひとりだけ翻弄されているのがくやしくて、佐助はみずから口を開いて逆に小十
郎の口内へ舌をつっこんでやる。
目の前の小十郎の目がすこし驚きで見開かれるが、すぐにまた閉じられ、口内に入り込んできた佐助の舌へと小十郎の意識が集
中させられる。佐助の舌をからめとった小十郎の舌はひどく卑猥にうごめいて、それだけでひとつの生き物のようだと佐助はぼ
んやりと思った。
鼻先から短い息が出るのが、なんだか甘い声のようで佐助はいやだと思う。おのれがそれをするといやに高い音になって、まる
で媚びているようだ。同じ音も小十郎が出せば卑猥だけれど低音でそんなふうには感じられない。ちゅ、ちゅ、と水音が鳴るた
びに佐助の背中に雷のようなものがはしって、立つのさえ必死だ。
(ちっくしょ、まじ、うまいこのひと)
佐助はうっとりと吐き捨てる。
くちゅん、と音をたてて小十郎が唇を離し、それから佐助の手首も解放した。そしてたがいの唾液で濡れた口元をぐい、と手の
甲でぬぐう。その仕草がまたひどく男らしくて佐助はいらついた。佐助のほうはほとんど立っていることすら危ういのだ。
小十郎は事も無げに言う。まあこんなものだろう。
「しっかり役目、果たしてきな」
そう言って去っていこうとする小十郎の背中を佐助は思い切り蹴ってやる。
振り返った小十郎を恨めしげに睨んだ。
「ちょっと」
「なんだ」
「あんたねぇ!今から俺様がお仕事だっつーのに、あーんな腰に来る接吻されたんじゃあ支障が出るでしょーが」
「補給っつったのはおまえだろう」
「あれじゃ補給どころかあふれ出るってば。
・・・・つーか戦場で馴れ合うのはナシって言ったのそちらさんじゃなかった?」
半眼でちろりと笑う佐助にも小十郎はそんなことか、と表情を変えない。
そのままの顔で、前払いだ、と言う。
「まえばらい?」
佐助が首を傾げると小十郎は頷き、
「恩賞のな」
「へ」
「おまえが今回の仕事を上手くやったあかつきの、だ。
もう払ったから失敗なんぞは許されねェってことを肝に銘じておけ」
「・・・なんか悪徳商法みてーだな。現物支給が本人の意思とは無関係に先にされてるんですけど」
「いらんなら返せ」
「どうやって返せってのさ。つーかあんたどんだけ自分に価値があると思ってるわけ?それとも俺がよっぽど安いと思われて
んのかねぇ。あれで、恩賞ってか」
とてもとてもと佐助は首を振る。
小十郎は佐助を見ながら、すこし考えるように視線をさまよわせ、
「じゃあ手付け金だ」
と言い直す。
残りは還ってからだ、と言う。
佐助はぽかんと間抜けに口を開けて、まじまじと小十郎を見た。それからようやっと意味を理解して吹き出す。
そりゃあいい。
ぱんぱんと小十郎の背中を叩きながら佐助は笑う。
「どんな恩賞なのか、楽しみで手が狂っちゃうかも」
小十郎はそれに、くい、と口角をあげて返す。
「気をつけな。贈る先がなくなったら、当然だがはなしは白紙だぜ」
「そっちこそ」
恩賞だとか手付け金だとか、なんて色気も情緒もない会話だ。が、佐助はおかしかった。とてもそれはふたりに相応しいような
気がした。それにそれは睦言や無意味な触れあいより、たまらなく刺激的だ。
死なないでね、と佐助は言う。
それからあんたは俺のごほうびなんだから、と笑った。
おわり
|
こじゅさす祭に投下第二弾。 迷惑を わきまえろ
某伊丹さんのちゅーイラストに滾るが故の愚行です。しかたない。あのこじゅはえろかった(責任転嫁
こじゅさすオンリーの方には腹立たしいひとりごと↓
そしてこれは完全にさすこじゅだなあと我ながら思いますぐふっ。こじゅ誘い受け。
空天
2006/12/20
プラウザバックよりお戻りください