四回目くらいから、もう面倒になったので言うのを止めてしまった。 晴れ 時々 雨 ところにより 曇り 片倉小十郎は、猿飛佐助のことがすきらしい。 最近気づいたこの驚愕の事実を、けれど小十郎は案外冷静に受け入れていた。もともといろいろあって一度付き合ってしまってい たということもあるし、体も二回きりだったが重ねたこともあるし、更に言うなら佐助は笑ってしまうような勘違いのすえに先走 って小十郎にすでに告白していたのでーーーようするに、絶対的な優位に小十郎は立っていた。小十郎がひとこと本心をあらわに すれば、佐助はすぐにでも小十郎のものになる。 事実、なった。 (逆か?) 抱かれたのは、自分だった。 それも特になにか考えてのことではなかった。佐助が苦労したという話を聞いて、大変だったのだなと思って、そうしたら会いに 行ってもいいかなと思った。もうとっくに小十郎の脳はなんらかの誤作動のせいで佐助のことを恋愛対象として見ていたので、な らばあとは言うだけで佐助は小十郎のものだ。そんなに欲しいとも思わないけれど、もらえるものはもらっておこう。 そう思ってキスをしたら佐助が被さってきたので、ああこいつは抱きたいのか俺を。物好きだな。まあいいか、と思った。一回目 のセックスは無理矢理とはいえそれなりに快感もあった。まあいいか。佐助が抱きたいというなら抱かせてやっても。抱かれっぱ なしも癪だが、それはまた次の機会に回せばいい。小十郎は佐助を抱きたい、と熱烈に思っているわけではなかった。正直な話、 小十郎の性癖はノーマルでついでに言うならそう若くもないのだ。十代の頃なら恋愛感情と性欲はイコォルで繋がるかもしれない が、もはや三十路も手の届くところに突っ立っている小十郎にとって男に恋をしたということは、男に欲情することとはイコォル ではない。そんなことより小十郎は佐助の髪の毛を引っぱったり殴ったり転がしたりして、ぎゃーぎゃーと騒ぐあの男の顔がころ ころ変わるのを見る方がよほどたのしい。 佐助はちがうらしいが。 「・・・っぃ、あ」 小十郎は息を詰める。 佐助がくつくつと笑いながら、小十郎の性器をぐ、と掴んで達するのを止めようとする。 まだ俺がいけないでしょ、と腰を回されればざわざわと背筋をむず痒いような感覚が走り抜けて、小十郎はシーツを握りしめた。 すでに臨界点を迎えている体を、それでも佐助は解放させない。畜生、と吐き捨てる。ふたつしか違わないというのに、目の前の この赤毛はどうしてこんなにしつこいのか。 「はな、せ」 「やーだね」 「・・・っ、くそがっ」 「だってあんた、一回しか、させてくんないじゃん」 長い方がいいでしょ、だったら。 佐助は言いながらぐい、と腰を突き入れた。ひゅう、とかすれた息が漏れる。佐助の手が性器から離れたので、小十郎はちいさく 声をあげながら精を吐き出した。ついで、中に熱い物があたる。ち、と小十郎は舌打ちをした。中に出すなと言ってるのにいっこ うに佐助は聞かない。 体のうえの佐助が笑いながらキスを降らしてくる。 それを鬱陶しげに振り払いながら、抜け、と言った。 「気色悪ィ」 「ひでー」 「うるせェ。大体てめェはしつけェんだよ」 「あら心外。あんたきもちよさそうに鳴くくせに」 佐助の指が秘部のひだをくすぐる。 その手をぺしりと叩きながら小十郎は佐助の肩を押しながら佐助の性器を体のなかから抜いた。ずるりと引き出される感覚にすこ し体がふるえる。それを見た佐助がうれしそうに肩に置かれた小十郎の指にキスを落とす。ちゅ、とちいさな音をたてて触れる唇 の感蝕に小十郎は眉を寄せた。そのまま手をあげて佐助の顔を手の甲で押しのける。 小十郎は乱れた髪を掻き上げて、風呂、とひとこと言ってベッドを立った。いっこうに話を聞かない佐助のせいで、事後にはかな らず後処理をしなくてはいけない。佐助はへたりとベッドにへばりつきながら、やってあげようかーと笑う。脱ぎ散らかされた服 を拾って小十郎はそのにやけ顔に叩きつけた。 「そんな気遣いするくれェなら、出すな」 「あんたのなかが狭いからいけないんじゃない」 「てめェが早漏なんじゃねェか」 「おやおや、片倉さんはもっと長いほうがこのみ?」 「死ぬか」 「やです」 ばいばい、と手が振られる。 下着だけつけて小十郎は寝室を出ようとした。が、ちょっと待って、と声がかかる。 振り返り、なんだ、と問う。ベッドに寝そべっている佐助は、すこし黙ってそれからへらりと笑った。なんでもない。 「はやく帰ってきてね、ダーリン」 「死んでろ」 ばたん、とドアを閉めた。 なのでもちろん小十郎には寝室の佐助の顔がちいさく歪んだのは見えない。 佐助は大いに困っていた。 小十郎と正式に恋人ーーーというか、体を重ねるようになってから一月経った。佐助は小十郎に惚れているわけで、もちろんこの 事態は願ったり叶ったりで、しあわせでないはずがない。あの小十郎が、あの鉄壁の片倉小十郎が、男に体を許しているなんて誰 が信じるだろう。佐助だって夢ではないかと思う。 (でも、なあ) 金曜日の夕方、例によって伊達政宗の家に行くために帰り支度をする恋人を眺めながら佐助は息を吐く。 二度目に小十郎を抱いた日、調子に乗って抜かずに三回ほど致してしまった佐助をげしげしと踏みつけながら、小十郎は言った。 やられっぱなしは性に合わん。 「次は、俺がやる」 にやりと笑ったその顔は大層凶悪。 それでいて、それはもう男前で格好良かった。 職員机でぼんやりとしている佐助に、小十郎は眉をひそめて仕事をしろと言う。机のうえには会計書類が雑多に放置されている。 佐助はそれを気が乗らなさげにまとめながら、ノートパソコンの電源を入れた。もうだいぶ暖かくなったので、うすいジャケット だけ羽織っている小十郎がひょいと覗き込んでくる。 「出来るか」 「任せなさい。俺ァ、あんたと違って理系だからね」 「関係ねェ」 小十郎は国文科出身である。 卒論が源氏物語だと知って大爆笑したのはついこのあいだのことだ。もちろん報復は受けた。 エクセルを開いてデータを打ち込み始めると、安心したように小十郎は鞄を持ち上げて、それからじゃあなと言う。佐助はパソコ ンの画面を見たまま、ひらひらと手を振った。また、と言う。また土曜日。小十郎はすこし振り返って、映画のタイトルだけ言っ て職員室を出て行った。 土曜日に映画を見て、どちらかの家に泊まって、日曜日はだらだら過ごしたりどこかに行ったりするのがふたりの週末の過ごし方 として定着しつつある。文句はない。あるはずがない。一緒に居るのはたのしいし、小十郎の作るごはんはおいしい。小十郎が佐 助の作ったごはんを食べて、たまにおいしいと言ってもらえればそれだってうれしい。 問題はない。 一見ない。 「・・・・どうすっかなー」 かたかたとキーボードを打ちながらごちる。 小十郎は最初の夜、抱かせてやる、と言った。なので有り難く佐助は小十郎を抱いた。きもちよかった。 その次の週、またそういう雰囲気になったときに、小十郎は今度は俺だと言ったが佐助は拒否した。拒否した、というより正しく 言えば、びびったのだ。覚悟はしていたがやはり痛いのはこのましくない。小十郎のあれのサイズは体に見合って大層立派で、一 度目は気絶するほど痛かった。冷や汗を流しながら首を振る佐助に、小十郎はすこし黙ったあと息を吐いて頷いた。いやならいい。 そう言う。 その晩も佐助はちゃっかり小十郎を頂いてしまった。 (まずいよねえ) 不公平だ。 小十郎にばかり負担をかけるのは佐助としても本意ではない。 それになにより、最近佐助が焦っているのは小十郎が抱かせろと言わなくなってきたことだ。三回ほどは言われたが、四週目から なにも言わずに黙って下になるようになった。これは、まずい。 小十郎は佐助になにも言わない。抱かせてるのだからもちろん、小十郎だって佐助のことを憎からず思っているのだとはーーー思 いたい、ところだが正直自信なんて一ミリもない。だって小十郎はいつも無表情で、ついでに言えば寡黙で、たぶん口での会話よ り殴られたり蹴られたりのほうの会話のほうが多い。抱かせろ、と言われるのは困ったがうれしかった。だって小十郎が佐助を求 めているということだ。うれしくないはずがない。 いつかはやっぱ俺も下になんねーとなーと思っていたら小十郎からその誘いが来なくなったので佐助は大いに困っている。 しかし今更なんと言えばいい。 抱いて、など言えるわけがない。佐助は男だ。男のプライドがある。抱いてくれなんて言うくらいだったら頭にリボンでも括り付 けて素っ裸で足を開いて小十郎のベッドで待機するほうが余程ましだ。それも死ぬほどやりたくないけれど。 データを全て打ち終わって、ノートパソコンの電源を落とすと時計はすでに七時を指していた。誰も居ない職員室で帰り支度をし ながら、向かい側の小十郎の席を恨めしげに見つめる。三回で諦めるなんてなんてこらえ性がないのか。男なら手に入れるまでちゃ んと欲しがれ。無駄に男前な恋人の、らしくない弱腰に佐助はひどく身勝手な怒りをおぼえた。 「・・・」 しばらく無人の職員机を見てから、佐助はよしとつぶやいた。 その目は、なにやら決意したような目だった。 ところで片倉小十郎は、べつに弱腰だったわけではない。 有り体に言えば、面倒だった。佐助は抱かせろと言うといやだと言う。なんて勝手な男だと思ったが、いやがる成人男児を手込め にしようとすればそれ相応の体力をつかう。それが面倒だった。いやだと言うなら、仕方がないではないか。特別抱きたいという 欲求があるわけではなく、あえて言えば体を重ねるのは男であれば当然の性欲をパートナーが居るならばその相手と共有しようと いう、その程度のことに過ぎない。ならば自分が受け身だからといって小十郎にこだわりはない。快感はあった。十分すぎるほど。 「・・・どんな冗談だ、こいつァ」 が、それも限度がある。 小十郎は低い声で目の前の、自分に覆い被さっている男に凄む。 小十郎に跨っている佐助は、黙ったままぷちぷちと自分のパジャマのボタンを外す。その間小十郎はなにもせずにただ佐助が服を 脱いで、上半身をあらわにするのを見ていた。もちろん本意ではない。ほんとうだったらすぐさま佐助を振り落としてわきのテー ブルに置いてある花瓶の水をぶっかけてこの家を出て行ってやりたい。が、出来ない。 「外せ」 小十郎の腕は、ベッドの柵にネクタイで括り付けられている。 小十郎のスウェットをたくし上げてさわさわと中を探っていた佐助は、顔をあげて真顔で却下と言った。小十郎はふつふつと沸き 上がってくる怒りに頭を熱くしながら、考える。昨日は佐助の家に泊まった。疲れていたのでセックスはしなかった。狭い佐助の ベッドでふたり寝るのはひどく窮屈だったが、佐助がどうしてもと言うのでしかたなく一緒に寝た。 そして起きたらこうだ。 外は朝だ。雀が鳴いてる。小十郎には朝から盛る趣味はない。 外せ。また言った。が、佐助は構わずスウェットに手を突っ込んで小十郎の体を触っている。つうと脇腹を触られると息が漏れた。 ぐい、とズボンが下ろされ、下着越しに性器に触れられる。朝なのでゆるく勃ちあがっているそれを佐助は下着から取り出し、し ばらくじいと凝視する。縛りのつぎは視姦プレイか、と小十郎はうんざりと息を吐く。 なにがしたい、と聞いた。 「朝から盛ってんのか。元気だな二十七ってェのは。あァ?」 「・・・」 佐助は答えない。 丸い目を細めて、小十郎の性器をしばらく見つめていた佐助は指でそれを育て始める。細い指に的確になぞられると、息が上がる。 硬くなっていく性器を眺めながら、けれどいつもなら楽しそうに笑う佐助の顔はひどく真剣だった。小十郎は眉を寄せる。こんな いいようにされているというのに、佐助の顔が不満げで不愉快だ。 完全に勃ちあがった小十郎の性器を前にして、佐助は大きく深呼吸をしてから自分の下着を下ろした。 小十郎は眉間に皺を寄せる。 「・・・このままやるつもりかてめェ」 「当たり前じゃん。なんのために縛ったと思ってんだよ」 「知るか。外せ。殺してやる」 「殺すならこの後にして」 佐助の手がベッドサイドに伸びる。 置いてあったローションの蓋をきゅ、と開けて中身を手にとろりと出す。あまったるい匂いが漂ってきて、小十郎は目を閉じた。 朝からいいようにされると思うと気が滅入る。このままやられたら今後一月はキスもなにも全部禁止にしてやる、と小十郎は思っ た。そしてそのまえに、なによりもまえに、佐助の息の根を止めてやろう。 佐助は悶々と怒りを渦巻かせる小十郎のうえで、ローションを手の中で温めている。 「・・・こんなもんか」 目を閉じた小十郎は、その声に秘部へと伸びてくる手の感触を予感した。 が、予想は外れた。 くちゅん、という水音がする。 ついで佐助の呻き声がした。佐助の手は伸びてこない。小十郎は目を開いた。体の上の赤毛は、ひどく辛そうな顔をしている。く ちゅくちゅという水音は、佐助のうしろのほうから聞こえてくる。 切れ長の目を小十郎は見開いた。 「おまえ」 「・・・黙って待ってろっ、て」 へらりと笑う佐助の顔は、かすかに赤い。 小十郎からは見えないが、佐助は自分の秘部に自分の指を突っ込んで掻き回しているようだった。何本くらい入れればいいのかな、 とかすれた声が聞いてきたので、小十郎はまだほうけたまま三本、と答えた。佐助の顔が情けなく歪む。 「お、おいな」 「痛む、それくらい入れねェと」 「まじ、で。・・・きっちィ」 「・・・おまえ、何がしたい?」 抱かれたいのか。 佐助は質問に答えないまま、息を荒げて秘部を開く。指を増やしたのか一層顔の赤みが増して、汗がぽつりぽつりと額に浮かんで いる。朝なので下りている前髪が額に張り付いて、丸い目がぼんやりと細められているのを小十郎は黙って見た。手を伸ばしたい と思うのに、括り付けられているネクタイはどう引っぱっても外れない。 「は、は、ぅ」 「猿飛」 「な、に」 「外せ」 「・・・・やだ、ね」 「逃げねェよ」 「でも、だ、め」 顔を歪めながら、佐助は笑う。 不細工だな、と小十郎は思った。ほおが赤くて、眉は下がって唇は歪んでいる。変な顔だ。ぐい、と体を伸ばして顔を佐助の首元 に寄せた。ちゅ、と鎖骨を吸うと佐助の体がふるえて、肩にふるふると揺れる手がかかる。そのまま舐めれば汗の味がした。ひく りと佐助が揺れる。 「寝て、ろって、あんたは、・・・ふ、ぅ」 「御免だ」 見上げると、困ったように佐助が眉を下げる。 全部俺がするから、と途切れ途切れに言うのに、小十郎ははんと鼻で笑った。下だろうと上だろうと、一方的にされるのは性に合 わない。嫌がらせのように舌で佐助の体をなぞっていく。胸の飾りをゆるく噛んだら佐助が鳴いた。 「ぃ、あっ」 顔がかすかに青くなっている。快感ではなく、痛みに声が出たのだろう。 佐助の体がぐい、と離される。膝立ちになった佐助は、小十郎の性器に手を添えて腰をゆるゆると落としていく。性器の先端が熱 い肉に包まれていく感触に、小十郎は目を閉じた。なかは慣らしたとはいえ狭く、そのうえ佐助が途中で腰を下ろすのをやめたの で中途半端なところで締め付けられて小十郎は痛みに眉を寄せる。 「止め、んな、阿呆」 「・・・・無理」 「あ、ァ?」 「も、入んねェ・・・!」 佐助の目元が赤い。 見れば半分ほどしか佐助は小十郎の性器を受け入れていない。佐助の顔は痛みで歪んで、赤かった顔はうっすらと青い。馬鹿野郎 俺だって痛ェよと言いながらも、小十郎はその顔を見てどくんと下半身に熱が集まるのを感じた。 ひいと佐助がまた情けない声をあげる。 「も、これ以上おっきく、すんな、よ!」 「・・・うるせェ」 不覚だ。 佐助はひいひい言いながら小十郎の腰に手を掛ける。 「いたたたたた・・・ちょ、これ、外してもい、い?まじ無理」 「ふざけ、んな。俺はどうなる」 「抜くから、手で、それでかん、べん・・・っうぁ!」 佐助の背中が反り返る。 小十郎は腰をあげてぐい、と性器を突き上げる。さらに縋り付いてきた佐助の肩に顎を乗せて、押し込んでやると完全に小十郎の 性器はなかに収められた。へたりと佐助が倒れ込んでくるのを鬱陶しげに顎で払い、ぐい、と腰をまた突き上げる。佐助はおそら く痛みで呻き声をあげた。 「いた、いってェーよ!」 「阿呆、よくなりたかったら、これ、外せ」 拘束された状態では、思うように動かすことも出来ない。 佐助はう、と声を詰まらせた。ちいさい声で、やだ、と言う。小十郎が睨み付けると、だってあんたうまそうでやだ、と佐助は続 けた。首を傾げる。意味が分からない。下手よりいいだろうと言えば、佐助は苦しげな顔を更に歪ませて、ぜってーやだ、と言う。 「男だぜ、俺」 「俺もだが」 「・・・きもちよ、くなって、あんた、でかいし、女みてーに、なったら、・・・は、やだ」 まだ辛いのか佐助の声は途切れている。 小十郎は呆れた。佐助は必死で体を動かそうとしているが、慣れていないのに騎乗位なんてしたら痛いに決まっている。体を浮か すのにさえ苦労している様を見ながら、息を吐いた。縋り付いてくる腕をゆるく噛む。かすかな痛みに眉を寄せた佐助を、くいく いと顎で呼ぶ。 「な、に」 近づいてきた顔を、小十郎はじいと見つめた。 男の顔だ。しかもかすかに目はうるんで、顔は赤くなったり青くなったりしてもう大変なことになっている。はっきり言ってひど く滑稽だ。不細工だ。が、どうやら最近ーーというか、さっき知ったことだが。 小十郎はこういう佐助の顔が、きらいではないらしい。 (俺も余程物好きだ) ちゅ、と口づける。 佐助の鼻先から息が漏れる。唇を離して、もう何度目になるかわからない外せ、をまた小十郎は言った。佐助は眉を寄せて不満げ な顔をする。体を伸ばして、耳元に同じ事を小十郎は言った。 「外せ」 「・・・っ、ひきょ、もの」 あんたの声に弱いって知ってる癖に。 佐助が悔しげに言う。初耳だった。ならば今度から利用させてもらおうと小十郎は思う。観念したらしい佐助は手を伸ばして、ベ ッドの柵に結びつけていたネクタイを解く。自由になった手を小十郎は二三度握ったり開いたりして、それから佐助のほおに添え て、 「いだだだだだだだ」 伸ばした。 何度か引っぱる。そのうち満足したので解放してやった。真っ赤になっている佐助のほおを満足げに眺めつつ、小十郎は体を起こ した。佐助の背中に手を回し、引き寄せる。は、と佐助が息を吐いた。腰に手を下ろし、掴む。 「いくぞ」 「・・・痛い?」 「知るか」 「あんま痛くすんな、よ」 「さァな」 ひょいと佐助の腰を持ち上げて、下ろした。 ぐちゅ、と接合部が音を立てる。佐助が首を反らした。その反り返ってあらわになった喉に口付けながら、小十郎は佐助の体を揺 らし、そして自分の腰を突き上げる。こり、と奥の凝りに先端が当たるときゅ、となかが締まった。 「ひ」 「・・・ここか?」 「や、いいっ、そこは!」 「てめェはそう言っても、いつも、やめんだろう」 仕返しだ、と殊更にその凝りを突く。 佐助は突かれるたびに小刻みに揺れ、短く鳴く。 「あ、あ、あ、あ」 「・・・っく」 「は、ふ」 「いい、んじゃねェか」 「・・・っくしょ、だから、やだったんだよっ」 やっぱあんた上手い。 佐助がひどく悔しそうに言うので、小十郎は笑ってしまった。そらどうも、と体の間でとろけている佐助の性器をなぞるとぴゅ、 と白い液体が飛び出す。へたりと佐助が落ちてくるのでそれを受け止めながら更に揺らすと、ほとんどうつろになっている佐助は やめろ絶倫と文句を言いながらも一緒に腰を揺らしてくる。小十郎は苦く笑った。 出し入れする度にぐちゅぐちゅと音が鳴る。達しそうになって小十郎は佐助を持ち上げ、性器を抜こうとした。が、佐助はがしり と小十郎の腰を掴んで、離れない。小十郎は眉を寄せた。 「・・・って、め」 「抜く、な!」 「出すぞ・・・っ、阿呆っ」 「・・・・っぃ」 「くっ」 なんとか堪えようとしたが、結局佐助のなかに精を放った。 思わずベッドに肘をつく。どさりと佐助がその上に覆い被さってきた。目の前でへたりこんでいる赤い髪を眺めながら、目を細め て小十郎は息を吐く。何がしたかったんだ、と聞くと倒れ込んでいる佐助はゆるゆると顔を上げた。まだ息が荒い。 事後の余韻でゆるみきっている顔をぺしりとはたく。ほわほわとした顔はそれでも変わらない。ひょいと持ち上げて性器を抜くと 佐助がちいさく呻いた。横に寝かすと痛かった、と不満げに吐きすれられる。 小十郎は目を細めて皮肉げに笑った。 「結局二度もいったのにか」 「・・・知らねー」 「大体最初痛かったのは、てめェが阿呆なことするからだ」 「だってー」 「処理しとけよ。後がきつい」 小十郎はティッシュで残滓をぬぐいながらベッドを立つ。 素っ裸になっている佐助にぱさりとパジャマを投げつける。それを手に取った佐助は、愛がないなあとちいさく呟いた。小十郎は いっしゅん目を丸め、それからまた阿呆と息を吐く。 「なに言ってんだ」 「だってさーあんたすーぐ諦めるんだもん、俺のこと抱くの」 「てめェが嫌がるからだろうが」 「三回だけじゃん!もっと粘れよ!ネバーギブアップ!」 「意味がわからん」 ぽいとティッシュをゴミ箱に放った。 腕を組んで佐助を見下ろす。相変わらず不細工な顔をさらしている恋人は、不満げに小十郎を見上げている。なにが不満だ、と言 えばあんた俺のことすき?と佐助は聞いてきた。また息を吐く。あほらしい。もぞもぞとパジャマを着ている佐助の髪をぽんぽん と叩きながら、小十郎はちいさく笑った。佐助は本来馬鹿な男ではない。馬鹿になるのは、相手が小十郎だからだ。 見ているとできの悪い園児を見ているようなきもちになる。 「・・・でも片倉さん、あんまりえっちすきじゃないでしょ」 「てめェがそればっかり言い過ぎてるだけだ」 「だって男の子だぜ、俺たち」 したいでしょ、えっち。 首を傾げられても困る。べつにかわいくない。 汗をかいている額をてのひらで覆ってやると、佐助は目を閉じる。小十郎はその体勢のまま言った。 「やりてェだけなら」 「・・・」 「女にする」 「え」 「そうじゃねェから、おまえだろう」 「え、え、ちょい待ち」 「寝てろ」 ぐい、と額を押してベッドに佐助を倒す。 ぽすんと倒れ込んだ佐助は、小十郎を見上げながら俺って愛されてる?と聞く。さァな、と笑いながら、小十郎は髪を掻き上げた。 抱いて欲しいなら抱いてやるよと言えば、なんかちがうと佐助がぼやく。ふてくされた顔がますます不細工で、小十郎は思わず掴 みあげて放り投げたくなった。が、耐える。 かわりに屈み込んで、前髪を掴んで引っぱって額をあらわにしてキスをしてやった。ぽんと佐助が赤くなる。あれだけのことをし て、この男はこの程度のことで赤くなるのだ。天気のようにくるくる顔が変わる。 佐助はいっときだっておなじ顔をしていない。 たまらない、と思った。 (殴りてェ) 左手がうずうずする。 運が悪い。小十郎は自分の意外な性癖に驚きつつ、思った。佐助はとんだ男につかまった。小十郎はセックスより余程、佐助のこ とをいじめるほうが楽しい。こうやって事後、ふわふわと緩んでいる佐助を見ていても襲いたいとは思わないが殴ってぎゃあとい う悲鳴をあげさせたいとは思う。困ったことだ。まあ。小十郎は思う。まあそういう俺に惚れたのは、この男だからべつにいいだ ろうすきにしても。 左手でシーツを握りしめながら、小十郎は苦く笑ってトマトみてェだぜ、と言う。 変わりやすい天気のような恋人は、すこし黙ってからへらりと笑った。 おわり |