つまり惚れているのです。


     





余裕のある態度がどうしても許せない。
佐助に触れられているときの小十郎には余裕など一欠片もないのだ。


























                           星の数ほど男はあれど意地を張るのは主ばかり 3


























町に出てそれらしい通りに足を踏み入れると、存外簡単に目的は適うことになった。
薄物を頭に被っていたのがよかったのかもしれない。誘いをかけてくる男を一瞥してやって小十郎は思った。男は下卑
た顔をして笑っている。崩れていることではあのしのびとそう変わらないけれども、崩れ方ひとつで随分と印象は変わ
るのだとなんとなく思った。佐助の顔は元がおさないからそのせいかもしれない。
兎も角、案外なんとかなりそうなので小十郎はすこし選り好みをすることにした。
誰でもいいと言えば誰でもいいけれども、触れられただけでなにか沸いてきそうな汚らしい輩は御免被る。なにかおか
しな趣向を持っていそうな素封家も遠慮したい。
できるだけ平々凡々な男がいい、と小十郎は思った。
そこらを歩いていれば十人中三人には居そうな、けれどもすれ違った瞬間に顔を忘れてしまいそうな男がいい。気が弱
いんだか強いんだか解らないような顔をして、軽口ばかり叩いているならばなおいい。そのほうが気が紛れる。声は低
いほうがいい。体は逞しいより細いくらいのほうが好ましい。けれどもそれでいて触れた肉は固くなければいけない。
それにできれば髪は、
小十郎は足を止めてこっそりと薄物の下で舌打ちをした。
馬鹿馬鹿しくなって小料理屋の壁に背を預ける。それから胸にてのひらを這わせ、ほう、と息を吐く。なんて苦しいん
だろうと忌々しげに胸をさする。今すぐ解いてしまいたいほど帯がうっとうしい。第一袴でないというのがこんなにも
動きにくいとはついぞ知らなかった。
しばらくそうしていると、声がかかった。
顔を上げてみると若い男が目の前に立っている。年の頃は主よりは上だろうが小十郎よりはおさないというところだろ
う。どうかしたかと問う声は随分低いが喧噪のなかとも思えないほどよく通った。すこし胸が苦しいんだと小十郎は答
えた。そしてじいと男の顔を改めて見てみる。すると男の髪が他より随分といろが薄いことに気付いた。
赤というほどではないが、随分赤みがかかっている。
男は親切げにではさすってやろうかと体を近づけてくる。顔はおさなげだが、こんな刻にこんな場所に居るのでは目的
は他の男たちと変わらないらしい。もっとも小十郎にとっては好都合である。すいと伸びてくる腕を逆に取ってやって、
ぐいと引いて道に出る。男はすこし驚いた顔をした。そうしていると目が丸い。
小十郎はますます満足して、にんまりと笑みを浮かべた。

「休まないか」

道には四半刻も歩けば必ずどこかに連れ込み茶屋がある。
男は驚いたようだったけれども、もちろん否やはないようで大人しく付いてきた。小十郎は一番最初に目に付いた茶屋
に足を踏み入れた。随分とうらぶれた建物であったけれども、目的が達せられるのであれば場所などべつに屋外でも構
わない。屋根があるならそれでいい。
部屋に通されると早速男は口を吸ってきた。
ここで小十郎に予期せぬ事態が起こった。

―――気色悪ィ。

男の唇はかさついて、薄かった。
しばらくすると舌を突っ込まれたが、それがまたいやにざらついていて不愉快極まりない。男の手がするすると袷から
這入り込んで肌に触れるとその感触は倍増した。かさついてささくれ立った手がうごめくと、虫が肌の上をのたうち回
っているような錯覚に陥るほどだった。小十郎は思わず口をてのひらで押さえた。そうでなくては吐きそうだ。
男はその動作になにか勘違いをしたらしく、喜々として小十郎を布団の上に押し倒して袷を開き、更に肌に触れてきた。
小十郎はその瞬間にぐっと拳に力を入れて、それからふと気付いて慌てて拳の力を抜いた。
もうすこしで殴るところだった。
眉をひそめて息を吐く。ここで殴ってしまってはなんの為にこんな形までしているのかまったく解らない。そう思って
しばらくは耐えようとしたけれども、しかし如何せん嫌悪感は柔らがない。むしろ酷くなる一方である。ともすれば拳
を相手の脳天へと振り下ろしそうになる。
小十郎はしばらく堪えて、これはどうも無理だと思った。
体の自由が利いている状態ではとても耐えられない。
小十郎は体をまさぐっている男の傍らで、引き抜かれた帯を使って座敷の柱に自らの腕を括り付けることにした。そう
すれば殴ろうにも殴れない。男はすこし驚いたように目を丸めた。黒い眼をしている。小十郎はうんざりと息を吐いた。
そういう趣向なのかと男は問うた。
小十郎は面倒だったので、頷いた。
男は喜んだようだった。どうして喜ぶのか小十郎には些っとも解らない。しかし男の手が性急になったのは有り難かっ
た。とっとと終わってもらわなければいよいよ何か吐き出してしまいそうだ。
男は手だけでなく、唇も体に這わせ出した。乳房をなぶり、するすると顔を割られた膝の間へと移動させる。小十郎は
その間目を瞑り、延々と孫子を頭のなかでそらんじていた。
なので、男の唇が秘部に寄っていることに気付かなかった。

「―――ッ、」

ぬるりと、舌が秘部に触れる。
小十郎は全身を粟立たせた。
がんと鈍い音が響き、踵の骨に堅い感触があって、目を開いてみると男の赤茶けた髪が視界から消えている。小十郎は
首を傾げ、腰を動かして身をすこし捩らせた。すると、股の間で事切れている男の姿が目に入った。
後頭部には自分の踵が食い込んでいる。
嗚呼、と小十郎は息を吐いて天井を仰ぎ、舌打ちをした。

そこでがらりと襖が開いた。











































佐助の指が触れた部分だけ、熱が残ってひりひりと焦げるような感触がする。
小十郎は忌々しげに眉を寄せた。佐助がやたらに強く背を抱き寄せている。どうせ顔はにやついているんだろう。
癪なことだ。まったくこんな予定ではなかったのに、どうして結局自分はこの男に抱かれているんだろう。
佐助以外の男に触れられるのが、あんなに気色悪いなんて思ってもみなかった。
知らぬ間に体を作り替えられたようだ。余計なことを、と小十郎は目の前にある佐助の首筋に恨みをこめて噛み付い
た。痛みに佐助が声をあげてぱっと身を引く。小十郎はふんと鼻を鳴らして、

「―――なんて面してんだ、おまえ」

佐助の顔を見て顔を歪めた。
身を引いて首を押さえる佐助の顔は、彼の髪や目のいろに劣らぬほどに赤く染まっている。
小十郎はぼうと呆けてしばらく佐助のその顔を眺めた。と、そのうちに目の前が真っ暗になった。佐助のてのひらで
目を覆われたらしい。見るなよ、と佐助がいやに切羽詰まった声で言う。

「おぼこいンだか、手練れてンだか解らないおひとだよ。参ッちまう」
「おい、手をどかせ」
「いやです」
「顔が赤かったぞ」
「気のせいじゃない?」
「気のせいじゃねェ」
「そんなこと言ってていいの。随分余裕じゃん」

声と一緒に、柱に括られていた腕から圧迫感が消え、するりと帯が外された。
血が急に巡り出す。そこに佐助の舌が触れる感触がした。体がひくりと震える。視界が利かないので、なんだか常よ
りも感触が大きいような気がする。佐助の舌は手首をぐるりと一週して、もう片方の腕のほうへ移動する。
背筋に走る震えを振り切るように目元の佐助の手を振り払ってみたが、もう佐助の顔は赤くはなかった。舌打ちをす
るとそのまま口を塞がれて、舌が這入り込んでくる。歯列をなぞられ、下唇をはむように佐助の唇が動く。息をしよ
うにもその重なりが深すぎて上手くできない。ぼうっと頭が霞む。その隙に佐助は完璧に小十郎の小袖を脱がせてし
まう。気付くと何も纏っていない状態で佐助に抱え込まれているのに、佐助のほうはまだ額宛ても取っていない。
唇をようよう離されて、小十郎は柱にずるりと背を預けて弛緩した。
けれども佐助のほうはまだ離す気はないらしく、すぐさま腰を引き寄せられる。だらりと上半身だけが仰け反った。
胸を張ったかたちになり、先刻乱暴に擦られた胸の天辺に佐助が吸い付いてくる。

「あ、―――ぁう」

慌てて体を起こすが、それはもう何の意味も持たない。ただ更に佐助に胸を押しつけるだけで、益々体の痺れがひど
くなるだけだった。じんと下半身が重く、そして熱くなる。腰帯も取られてしまって、何も付けていない秘部は動く
と佐助の袴に擦れる。すると更に熱はひどくなる。合わせて佐助の熱も感じられて、熱は下半身だけではなくて全身
に回り、どろりと天辺から溶けそうになる。
なんでこんなに違うんだと小十郎はうんざりした。
されていることは先刻の男とおんなじなのに、相手が佐助なだけでなにもかもが違う。
佐助は乳房から口を離すと、今度はてのひらで両の乳房をやや乱暴に押しつぶすようになぶり出す。痛みに眉を寄せ、
抗議の意味も込めて小十郎は佐助の額宛てを乱暴に剥ぎ取ってやった。第一此方ばかりが裸で佐助は首元から足の先
まで装束を纏っているのはあんまり不公平だ。
額宛てを剥ぎ取られた佐助はすこし目を見開いて、それからにんまりと笑みを浮かべた。

「自分ばっかり裸なのがいやなの?」
「あ、たりまえだろうが」
「そう。じゃあ、脱がせてよ」

すとんと佐助の膝から体を落とされる。
小十郎は半ばは無気になって、佐助の帷子に手をかけ、乱暴にそれを剥ぎ取ろうとした。けれども佐助は膝から小十
郎を下ろしても相変わらず手の動きも舌の動きも止めていないので、動かそうとする指がどうしても震える。かちか
ちと帷子の留め金が音を立てるのに、佐助はけらけらとひどくたのしそうに笑い声をあげた。
耳の後ろに舌を這わせながら、言う。

「脱がせてくれないの、小十郎さん」
「うる、せッ、黙れ」
「早くしてくれないかな。ほら、俺袴が濡れちゃってさ」

手を取られ、佐助の袴に触れさせられる。そこは先刻まで小十郎が腰掛けていた場所で、つまり濡れているのは小十
郎のせいだと佐助は言いたいのだ。小十郎は苛立たしげに佐助の手を振り払って、まだ袴に覆われた佐助の性器をぐ
っと、強すぎるくらいの力で握った。

「ッ、ちょ、っと」
「お望み通り脱がしてやるよ」

佐助が息を飲む。
小十郎は口角を上げ、そのまま袴の帯を解いた。下帯を押し上げている性器を取り出してやる。
佐助の性器はすでに勃ち上がって熱を帯びていた。
小十郎はそれを見て、すこしだけ躊躇した。
男の性器など産まれて初めて見た。まして隆起したものの形状など想像したこともなかった。佐助はいつも自分は裸
にならぬままに行為を終えてしまうし、小十郎に何かを求めたこともなかったのだ。
恐る恐る触れて見ると、どくどくと脈打ってひどく熱い。

「あつ、」

小十郎は咄嗟に手を引いた。
佐助を見上げるとおかしなふうに顔を歪めている。
小十郎は目を瞬かせ、それから再び佐助の性器に指を這わせてみた。佐助の戸惑っているような顔がなんだか愉快だ
ったのだ。今までこの男のあんな顔を見たことはなかった。特に閨では常に佐助が優位に立っていた。小十郎は目を
細め、髪を掻き上げて、うっすらと笑みを浮かべた。
閨での知識などほとんど持たない小十郎でも、この場所が欲で熱を持つくらいのことは知っている。
普段あれだけ飄々として、まるで自分をおさなごのように扱う佐助が、小十郎のような女の出来損ないの体で興奮し
ているのだ。それは小十郎をこの上なく満足させた。うっとりと息を吐くと佐助がすこし呻いた。
根本からするりと指で撫で上げると、佐助が息をゆるゆると吐き出し、慌てたように肩を掴んでくる。

「っと、小十郎さん。あんた、なにしてんの」
「触ってる。見りゃ解るだろう」
「も、いいって」
「何故」
「何故って、ねえ」
「触りてェ。触らせろ」

身を乗り出して性器の先端をてのひらで包み込む。
そうすると佐助の顔が歪んで、目元がかすかに赤らんだ。小十郎はそれを見て益々満足した。右手で佐助を押さえ、
左の手で性器をやわやわと握り込む。そのままてのひらで擦るようにしてやると、佐助が声を上げた。
低くてとろりとした常の声より、切羽詰まって高い声だった。
小十郎はそれに聞き入った。
顔を赤らめ、息を詰め、苦しげに眉を寄せて声を漏らす目の前の男は、まったく常の佐助ではなかった。小十郎は
それに見入って、手の動きを両方とも止めた。
その隙に佐助が慌てたように布団に小十郎を引き倒した。

「―――あんたねえ」

なにすんだよと佐助は顔を赤らめたままで唸る。
唸った声が掠れているのが、小十郎にはまた新鮮でとても心地よく感じられた。
帷子が露わな胸に触れてつめたい。小十郎は改めてそれを脱がせた。佐助はしかめ面のままそれを容認した。しろ
く、自分より余程滑らかな佐助の肌を目の前にして、小十郎は最初からこうしていればよかったと思った。
最初から自分で佐助に触れようとすればよかったのだ。
背中に手を回し、抱き寄せる。

「さるとび」

耳元で名を呼ぶと、触れた佐助の左の胸がどんと強く鳴るのが解った。
小十郎はにんまりと笑い、益々強く佐助を抱き締める。自分ばかりが余裕がないのだと思っていたが、どうして、
この男だってまったく余裕などない。しのびのくせにやたらに心の像が鳴っているのがおかしかった。
くつくつと笑って居るとぐいと引き離され、手を布団に縫い付けられる。
矢張りまったく余裕のない顔をした佐助が、口元を歪めて吐き捨てる。

「やさしくしてあげるつもりだったのに」

もう無理だぜ、と言う。
小十郎は思い切り鼻で笑った。

「端からそんなこと、誰も頼んじゃいねェんだよ」

手を伸ばし、また佐助の性器に触れてやる。
佐助は忌々しげに呻いて、小十郎の唇に噛みついた。





















あれ続いた・・・・・・
ただのエロ話なのににょこじゅの暴走によりあと一話続きます。



2009/05/11

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