ベッドに転がされ、上から十年下の弟子がのしかかってきたときになってもまだ、佐助は事態の把握を正確にな
すことができないでいた。ぼんやりと電灯のひかりを遮る厚い小十郎の体を見上げながら、一体これはどういう
夢なんだろう、と佐助は思っていた。
はて自分は何時の間に寝ちまったんだろう?
小十郎は難しい顔をして、未解読の暗号に挑む数学者のように佐助のワイシャツのボタンを外している。

「片倉君」
「なんだ」
「なにやってんの?」

小十郎は顔を上げた。
そしてしばらく黙ってから、「ボタンを外してる」と短く答えた。
佐助はそれに、やはりしばらく黙ってから、「そう」と頷いた。小十郎は再びボタンを外し始める。すぐに佐助
のワイシャツははだけさせられてしまった。暖房のおかげで、素肌でいてもそう寒いということはない。小十郎
のてのひらがひたりと触れる。佐助はまだぼんやりとしている。
なんだか現実味がない。
片倉小十郎が、自分を抱くという。

「ねえ、片倉君」

小十郎は佐助の肌を無感情に探りながら、なんだ、と答えた。
佐助はくすぐったさに身をよじり、これは夢かな、と聞いた。小十郎の手が止まる。見上げてみると珍しく目を
丸めて小十郎が凝固している。佐助は首を傾げて、どうもこれは夢じゃないのかもしれない、と思い直した。
肌の上で固まっている小十郎のてのひらを、ぎゅ、と試しに抓ってみると低い呻き声があがった。

「何するんだ、この阿呆」
「あ、やっぱり夢じゃねえんだ」

小十郎に叩かれながら、佐助はつぶやいた。
それから改めて小十郎を見上げた。小十郎はしかめ面で、再び佐助の肌を探っている。やはりなんだかぼんやり
してしまうのはつまり、小十郎の行為がこちらから見ているとどう見ても義務であるようにしか見えないからだ
ろう。佐助は小十郎の指の感触にすこし目を細め、それからほうと息を吐いた。
まったく俺の弟子は、馬鹿で一生懸命で残酷だ。

「片倉君」
「さっきからうるせェな。なんなんだ」
「あのねえ、やっぱりこういうのって、無理だと思うな」
「こういうの」

スラックスに手をかけようとしていた小十郎の手が止まった。佐助はすこし笑って、こういうの、と繰り返して
やった。

「さすがに惚れてねえと男には勃起できねえでしょ」

義務で抱かれることはできても、抱くことはできない。
正直小十郎に触れられると、佐助はそれだけでも興奮する。抱きたいという言葉にもおそろしく体に震えがいく。
でも小十郎がそうでないならば、それは結局佐助のひとり相撲だ。それはちょっとさすがにキツイな、と佐助は
小十郎の肩を押して、半身を起こしながら笑った。

「べつに、無理しなくてもいいんだぜ」

デジャヴ、と佐助は思った。
なんだか自分たちはおんなじことを延々とやっているようだ。小十郎は黙っている。仏頂面で佐助を睨み付けて、
胡座をかいて背を丸めている。二十五、と佐助は目の前の男の年齢をしみじみと感じた。
若いなあ。
眩暈がしそうだ。

「だって片倉君、音楽抜きで俺のこと考えられないでしょ」

根本にそれがあるならば、抱こうが抱かれようが結果は変わらない。
小十郎は黙ったまま、胡座をかいた足を崩して膝を立てた。そして髪を掻きむしって低い唸り声をあげる。佐助
はくしゃりと笑みを浮かべて、小十郎の髪を撫でてやった。硬い髪を指に絡ませて、まあしょうがないよ、とち
いさなこどもに言い聞かせるようにつぶやく。

「俺はまあ、それ以外は空っぽな男ですから」
「それは」
「うん」
「そうだ」
「ひでえ」
「だが」

小十郎は佐助の手首を取った。
佐助は眉を上げた。眉を寄せて、小十郎は口元を歪めて佐助を見ている。なんだかいやにその顔が切実なので、
佐助はとても驚いてしまった。握られた手首が痛い。
だが、と小十郎はまた言った。

「空っぽだからといって、それを抜きにしてもおまえは居ねェだろう」
「はあ、まあそうだけど、」

言いかけたところで、腕を引かれた。
こん、と小十郎の鎖骨に額が当たる。佐助は目を見開いた。ほおにちくちくと小十郎が着ている毛糸のセーター
の感触がする。背中に小十郎の手が回って、更に強く引き寄せられた。
この背中が、と小十郎がつぶやいた。

「小さいんだか大きいんだか、時々解らねェ」

腹が立つ、と言う。
意味が良く解らない。佐助は混乱した。小十郎がこんなふうに、佐助のことを抱き寄せたことなど今まで一度だ
ってなかったのだ。小十郎は佐助の髪に鼻先を埋めた。それですこしだけずるりと佐助の顔が下がって、ちょう
ど小十郎の心臓の部分にほおが当たって、その部分がもの凄い速さで鳴っていることでますます佐助は混乱して
しまった。
アッチェレランド。
鼓動は更に速くなっていく。

「どっちが良いんだか、それも解らん」

小十郎はなんだか苦しげに呻いて、それから舌打ちをした。
面倒臭ェ、と言う。おまえはほんとうに面倒臭ェ。音楽だけなら音楽だけで、そうやって俺だっておまえのこと
を考えてられりゃァこんなに面倒にならねェで済んだんだ。倒れるな、と小十郎は呻いた。体調を崩すな、無理
をするな、てめェの体を考えやがれ。
佐助は小十郎の心臓の音を聞いている。
プレスト、プレスティッシモ。速くなっていく鼓動の音は、なんだかひどく心地良い音楽のようだった。小十郎
が喋っていることが今ひとつよく解らないので、佐助はその反比例のように鼓動に耳を澄ませ、夢中でそれを聞
いていた。小十郎はおんなじことを言っている。倒れるなも無理をするなも、耳にたこができるほど今まで何遍
も聞かされたことばかりだ。それよりも小十郎の鼓動のほうがよほど佐助にとっては重大なことだった。小十郎
が不整脈の気でもあるならば話は別だけれども、そうでないならこの異常な鼓動の拍は佐助によってもたらされ
た事態ということになる。
片倉小十郎の体が、自分によってなにかしらの影響を受けている。
小十郎が、佐助の為に鼓動を速めている。
あの片倉小十郎が。

「え」

佐助は場違いに浮かれて、小十郎の言葉を聞き逃した。
顔を上げる。小十郎は不機嫌に顔を歪めている。佐助は首を傾げた。今なにか、大事なことを小十郎が言ったよ
うな気がするのにあまりよく聞こえなかった。
もう一回言って、と佐助は言った。小十郎は口元を引き攣らせて、それから視線をすこし逸らした。そして薄い
唇を重々しくすこしだけ開いて、俺は、と言う。
間がある。
小十郎は諦めたように息を吐いた。

「おまえの言う事は解らねェ。性欲だなんだってェのも、正直ねェよ。音楽抜きでおまえのことを考えろと言う
 のも無理だろう。第一、最初から音楽がなけりゃ会うことすらなかったのに、そんなこと考えるのも阿呆らし
 い。だが、」
「だが」
「この三ヶ月、」

おまえのことばかり考えていて頭がおかしくなりそうだと小十郎はうんざりと言った。

「おまえはおしまいに出来るのかもしれんが、俺は出来ねェ」

そう言って、小十郎は佐助にキスをした。短いキスだった。
口を離して、抱いてみてもいいか、と声になりきらないようなちいさな声で小十郎が聞く。佐助は一瞬、自分が
死んだような錯覚に陥った。心臓が跳ねすぎて、咄嗟に破裂したのかと勘違いしてしまった。
小十郎は苦しげな顔をしている。辛そうだ、と佐助は思った。そしてそれをひどく嬉しいと佐助は思ってしまっ
た。なんて駄目な人間だろう、自分は。佐助はそう思った。それとおんなじに、自分の為に顔を歪める小十郎に
ぎょっとするほど興奮した。顔が熱い。オーケストラを指揮した後のように、熱が体に満ち満ちている。
佐助は口元にてのひらを押し当てて呻いた。
ヤバイ、とつぶやく。

「死ぬかも」
「なんだって」
「片倉君、俺とのこと、おしまいにするのそんなに嫌なの?」

小十郎はすこし黙ってから、バツが悪そうに「そうだ」と答えた。
佐助は思わず視線を逸らしてしまった。

「やっぱり死ぬわ、これは」
「なんなんださっきから」
「嬉しすぎてちょっと死んじゃうかもしれない、俺」

佐助はへらりと堪えかねた笑みをこぼした。
では義務ではないのだ。

小十郎にとって、佐助は義務ではない。

性欲があるかどうかということは、もうそうなると大した問題ではないような気がした。小十郎の首に腕を回し
て佐助はぎゅうと抱きついて首に額を埋める。めちゃくちゃすき、と佐助は小十郎の耳元でつぶやいた。
小十郎の匂いがした。興奮する。もうこの際どっちが抱かれるかということを議論するよりも前に、佐助は小十
郎とセックスをしたいと思った。小十郎の匂いが一番濃くなる瞬間に、息ができなくなるくらいの馬鹿げたキス
をして、とろとろ溶け合って互いの境目を無くしたい。
無理をしなくてもいいから俺が抱いても良いですかと言おうとしたところで、背中にシーツが当たった。

「あれ」

小十郎が体の上に居る。
佐助は目を瞬かせた。キスが降ってくる。今度のキスは長かった。舌が絡んできて、背中がすこし反り返る。
すこしだけ空いた隙間に佐助は慌てて声を出した。

「片倉君」
「なんだ」
「あの、ええっと、さっきも言ったけど無理は」
「無理じゃねェ」
「は」
「無理じゃなさそうだ」

小十郎は首を竦めて、多分、と付け加えた。いけそうだ、と言う。佐助はまた目を瞬かせた。するりと小十郎の
手が佐助の肌を撫でて、ひくりと震えると、納得するように頷かれた。
これならまァ、いけるだろう。
ほおにひたりとつめたい手が当たる。

「猿飛」

抱いていいか。
今まで聞いたことのない切羽詰まった低い声に、佐助は溶けるように首を縦に振った。






































秘部にぬるりと濡れた感触がして、佐助は息を飲み込んだ。

「―――ッ、と、いいよ、そこまでしなくて」
「阿呆」

慣らさねェとキツイのはおまえだぞ。
小十郎は佐助の言葉をそう断ち切って、体を屈める。佐助の足の間に顔を埋めて、腰を持ち上げて秘部に舌を
這わせる。佐助はまた息を飲んだ。口を押さえて、声が出ないように必死で堪える。
きもちがいいというより、ぬるぬるとした感触は単なる違和感のほうに近かった。けれどもそれが小十郎の舌
だと考えると、途端に意味合いが代わってしまう。舌が秘部のひだをくすぐり、中に入り込んでくる。佐助は
叫び出しそうになった。片手で口を押さえ、もう片方はシーツを握りしめる。
きり、と布が音を立てた。

「爪」

小十郎にその手首を取られた。

「立てるな。折れるだろうが」
「そんな、ん、言っても、さ―――無理だって」

何かに縋らないではあんまり恥ずかしくて死にそうだ。
だというのに小十郎は手を伸ばし、口を押さえる手もシーツに押しつけてくる。唇を噛むな、と言う。切れる
だろうが。
佐助は唸った。
両の手を押さえられて、今度は指が秘部に這入り込んでくる。ローションで濡れた指はぬるりと案外簡単に中
へと入った。異物感に喉が震える。体の中に自分とはまったくちがうものが入って、それがうごめいている。
きもちわるい、と佐助は目を閉じて呻いた。我慢しろ、と小十郎はすぐさまそれを断ち切った。

「う、あっ―――か、たくらくん、やさしく、ない」
「おまえは、文句が多い」

小十郎は舌打ちをして、人差し指を思い切り根本まで突き入れた。拍子に指が触れた場所に、背中がついと反
り返る。佐助は思い切り奥歯を噛み締めた。
ここか、と小十郎が息を吐く。佐助は必死で首を振った。

「ちがう、たぶん、そこじゃない」
「何言ってんだおまえは。阿呆か」
「ち、がうって、ちがう、ちがう」
「違わねェだろう」
「ぃ、うあ、ぁ」

凝りのようなものを小十郎の指がくるりと撫でて、笑ってしまうような高い声が口からこぼれた。小十郎はし
ばらくその凝りを撫でてから、指を二本に増やした。それも案外簡単に入ってきたけれども、佐助はもうほと
んどそれを考える余裕すらなく、声を抑えるなどということはもちろん出来るわけもなかった。
鳥肌が立つような気色悪い声を垂れ流して、何時の間にか三本になった指がおそろしく恥ずかしい「くぽん」
という水音を立てて抜かれたときになってようやく、佐助は小十郎の顔を見る余裕ができた。小十郎はずっと
佐助を見ていたようで、ひたりと目が合った。夜に同化しそうな黒い眼が、真っ直ぐに自分を見下ろしている。
さるとび、と小十郎は佐助を呼んだ。

「平気か」

淡々と平らな声が問いかけてくる。
佐助はぼんやりと虚ろなまま、それに頷いた。痛みはない。初めて経験した感触だけれども、これはきっとき
もちがいいというのだろうと思う。大丈夫だよと言うと、小十郎は息を吐いた。きつくないかとまた聞いてく
る。余裕がないながらも、佐助は笑ってしまった。

「だい、じょぶだって。ガラスじゃねえんだから、ちょっと雑に扱ったって、壊れやしね、って」
「解らねェだろう」
「は、」
「万が一」

佐助は目を丸めた。
小十郎は真面目くさった顔で「壊れるかもしれん」と言う。
呆気に取られて声も出ない。顔が一気に熱くなった。小十郎は不思議そうに赤い佐助のほおにてのひらを置い
て、どうした辛いか、と空恐ろしいくらいにぬるまったい声で問いかけてくる。佐助は慌てて頷いた。佐助は
さっきの自分の言葉を訂正しなくてはいけないと思った。
こんなに小十郎がやさしくては、セックスをする前に溶けてしまう。
小十郎はコンドームの箱に手を伸ばしている。佐助はそれを眺めながら、セックスがこんなに疲れるものだと
は、と思った。一々、小十郎に触られる度に体が異常に反応して、そのうち心不全に陥ってしまうかもしれな
い。なんだかすこし変態じみてる。今だって小十郎がコンドームを付けてるのだと考えるだけで佐助は浮かれ
ている。もはや自分でも何が何だか解らない。
取り敢えず、自分はこの弟子に死ぬほど参っていることだけが解る。

「かた、くらくん」
「どうした」

足を持ち上げながら、小十郎が首を傾げる。
すきだよと佐助はへらりと笑った。あんたのことが、すごくすきだよ。
小十郎はそれですこしだけ固まった。それから舌打ちをした。舌打ちはないだろうと佐助は思った。けれども
それを口に出す前に、硬くて熱い感触が秘部に押し当てられてきて佐助は身を固めた。阿呆、と小十郎がしか
め面を更にしかめて佐助を罵る。それとおんなじに、ずるりと小十郎の性器が入ってきた。
散々慣らされた秘部は簡単に小十郎の熱を受け入れた。

「―――あ、あう、く、ふ」

異物感に背が反り返る。
小十郎は深く息を吐いて、佐助の性器をてのひらでくるりと包んだ。するすると擦られて、鈍い刺激が脳にの
ろのろと伝わっていく。異物感はそれですこしはましになった。その隙に小十郎が更に腰を進めてくる。ロー
ションの濡れた音がその度に響いて居たたまれない。
小十郎の性器はひどく熱くて、中から焦げそうだと佐助は思った。

「猿飛」

手を握られる。目をゆるゆると開くと、小十郎は佐助を見ていた。
切羽詰まった顔をしている。ほおがかすかに赤らんで、いやらしい顔だと佐助は思った。いつもセックスをす
るときともすこしちがう。夜色の目に、あきらかに欲が滲んでいる。
欲情しているのだと思った。
小十郎が佐助に。
佐助は小十郎の手を握り返した。小十郎はそれで、腰をゆっくりと動かし始めた。深く這入り込んだ性器がず
るりと抜けて、また這入ってくる。熱が体の中心を揺り動かすような感触に佐助は短い息を吐き出し、首を振
ってなんとか耐えた。そうでなければすぐにでも意識が飛びそうだった。

「ぁ、あ、あぅ―――ん、はぅ、ッん」

腰に小十郎の手が添えられて、更に深く引き寄せられる。
体をほとんどふたつに折り畳まれるような形にさせられる。息が苦しいうえに小十郎の性器が中に入り込んで
いる異物感と熱で、生理的な涙が目からこぼれた。この野郎、と佐助は目を瞑り、奥歯を噛み締めながら胸の
うちで小十郎を罵った。壊れるかもしれねえだのなんだと言ってた割に、扱いが雑じゃねえかよ。俺はもっと
やさしくしてやったぞ。文句を言おうにも、口を開くと舌を噛みそうで出来ない。中の凝りを性器が擦って、
おまけに自分の性器も同時にさすりあげられる。そうすると文句も何もかもが溶けてただの喘ぎになって口か
ら高く垂れ流れていく。

「あ、あぁ、っ、も、」
「ッ、く」

体の一番奥を突かれて、堪える間もなく佐助は達した。
体の上に居る小十郎も、息を詰めている。開放感と脱力感が体に満ちて、だらりと全身が弛緩する。佐助は深
く息を吐いた。ずるりと性器が体から抜かれる。その瞬間にも体がすこし震えた。
荒い息を整えていると、ぎしりとベッドが揺れて、何かと思うと小十郎が下着を付けて降りようとしている。
佐助は舌打ちをして重い体を引きずり、その腰にまとわりついた。

「ちょっ、と待て馬鹿弟子」

すかさず舌打ちが返ってくる。
見上げると、もの凄く面倒臭そうな顔をした小十郎が居た。

「なんだ阿呆師匠」
「いやいやいや、この場面でそれは無くない?なに勝手にどっか行こうとしてンの。俺を置いて」
「蒸しタオルを作るのを忘れていた」
「なにそれ」
「おまえそのままの格好で居るつもりか」

ぺり、と腰から引っぺがされ、ベッドの上に転がされる。佐助は目を瞬かせて自分の体を見下ろした。汗と自
分の精液のおかげで酷い事になっている。風邪を引くだろう、と小十郎は髪を掻き上げ、布団を佐助に被せて
吐き捨てた。布団はそのままくるりと前にたわめられる。照る照る坊主のような格好にさせられた佐助は、は
あ、と間抜けた声を出してちらりと目を伏せた。
それで、ほおを膨らませる。今度は小十郎が目を瞬かせた。

「どうした」
「フェアじゃない」
「なにが」
「片倉君、いってないじゃん」
「あァ」

小十郎は肩を竦めた
下着の上からスラックスを穿いて、立ち上がり佐助の目をてのひらで隠す。

「こんなもの、ひとりでなんとかする」
「なんだそりゃあ。それじゃあ、俺が居る意味がないじゃねえの」
「おまえは俺の性欲処理の為に居るのか。阿呆か」
「そうじゃねえけど、」

抱く時も抱かれる時も任せっぱなしでは、なんだか我ながらふがいない。
佐助は照る照る坊主になりながら眉を寄せ、俺だってあんたをきもちよくしたい、と言った。小十郎がそれに
もの凄く嫌そうな顔をした。なんだそりゃあ、と佐助はまた言った。どうしてこの男はこう、ことごとく期待
から外れた顔をするんだろうか。
小十郎は深く息を吐き、佐助の目に当てていた手をほおに寄せ、ぱしん、と軽く叩いた。よかったから阿呆な
気を遣うな、と言う。
佐助はますます眉を寄せた。

「いかなかったくせによく言うよ」
「―――しょうがねェだろう」

小十郎はすこし居心地の悪そうな顔をした。
佐助は唇を曲げて、ふん、と鼻を鳴らす。なんだよひとがちょっと年寄りだからって気ィ使っちゃって。馬鹿
じゃないの。布団を体に巻き付けたままころりとシーツに転がって、小十郎に背を向ける。
さるとび、と小十郎が呼んだけれども、無視をした。

「おい、猿飛」
「寝ました」
「阿呆か。おい」
「しいん」
「―――何拗ねてんだ」
「しぃいん」

しばらくそうしていたら、小十郎は諦めたのか一回背中を蹴りつけてからドアへ向かったらしい。かちゃりと
ノブが回る音が背中越しに聞こえた。佐助はふんとまた鼻を鳴らした。あの馬鹿弟子は三十代を甘くみてる。
俺はまだまだ全然いけたのに。正直腰は痛いし体はぎしぎしと全身軋んでいたけれども、それくらいの強がり
は言っておかないと悔しくてしょうがない。若いからって調子乗りやがって馬鹿弟子。
ドアは中々閉まらない。
しょうがねェだろう、とドアが閉まる音の代わりに小十郎の声がした。

「俺が満足するまでしたら、おまえ、ほんとうに壊れるぜ」

佐助はすこしだけ、黙った。
小十郎の言葉を聞いて、脳に届け、それを攪拌して意味を摂取する。
それがきちんと体に満ちてから、佐助は弾かれたように体を起こした。ドアに寄りかかってこちらを見ている
小十郎がすこし口の端を持ち上げる。佐助は何か言おうと口を開いたが、その前にぎしりと体が軋んでベッド
へ崩れ落ちた。
情けねェ面、と小十郎が笑う。

「それを見せるのは、俺だけにしておけよ」

そう言ってドアを閉める。
佐助はシーツとキスをしながら、畜生、と顔を真っ赤にして吐き捨てた。










       
 





あけましておめでとうございますエロ。
なんていうか、うん、ごめんなさい。




空天
2009/01/02

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