事実は小説より奇なりと言う。
成る程、と思う。成る程、そういう一面が無いことはない。
小説には起承転結がある。小説には理由と目的とそしてゴールがある。推理小説には謎と結末が、恋愛小説には恋と
成就―――――――もしくは破局―――――――が、純文学には思想とそれに伴う行き場のない苦悩がある。ひとは
それを自分の意志で手に取った瞬間から、なにかしらの「期待」をする。そして大抵はその小説はそれにどの程度で
あれ応えることになる。事実はそうではない。事実にはひとに対して何かしらの義務を負うところは一切無い。それ
らはただ事実であり、そこに存在し、そこには理由も目的もそしてゴールも存在しない。

要するに、と片倉小十郎は目の前の男を眺めながら思った。

小説はひとを楽しませるためにこの世に存在するが事実はそうではない。
小説の事件には目的があり結末があるが、事実はそうではない。

「ねえ片倉さん」

へらりと笑い、男はすこしだけ首を傾げる。

「そういうわけだから、俺様のこと、今度のクリスマスにプレゼントとして貰ってくれませんかね」

小十郎は手の中のコーヒーが入ったマグカップにちらりと視線を落とした。
息を吐くと、その真っ黒い液体の表面がゆらりと揺れて移り込んでいた自分の像も揺れて波紋のなかに飲み込まれた。























                  隣 人 は サ ン タ ク ロ ー ス























十二月の朝には閉鎖的な寒さがある。
布団から出ようとすると部屋の空気全部が両手を突いて思い切り掛け布団の上からぐいぐいと体を押さえつけてくる。
すこしでも体を動かすと、するすると布団の隙間からそれが入り込んできてぬくまった肌にひたりと嫌がらせじみた
冷えた感触を満遍なく擦り付けてくる。片倉小十郎は眉を寄せた。
じりりり、り、と目覚まし時計が鳴っている。
一瞬だけ迷ってから、布団を払いのけて手を伸ばし、ぱちんと時計のスイッチを切った。
ベッドの傍に置いてある電気ストーブに電源を入れて、ベッドサイドから足を降ろす。もちろんつめたいフローリン
グの床に直接足を降ろすことはしない。無意味なまでにもこもこと毛が立ち上がっているスリッパに足を滑り込ませ、
すぐさま電気ストーブの前まで移動し、しばらく体に熱が行き渡るのを待つ。体が小刻みに揺れる。窓には霜がびっ
しりと張り付いていて、外の風景は一切そこからはこぼれてこない。息を吐くと、丸くしろいもやが出来た。
午前六時の世界はひやりと静かで、まだみんな眠っている。何人かだけが起きて、もう一時間もすれば起き出す世界
の準備をする。小十郎は一階に降りて、リビングのストーブをつけ、洗面所で顔を洗ってからキッチンに入った。キ
ッチンの窓は隣の家に面していて、ふわりとひかりが漏れている。あちらも既に誰かが起きて、朝の仕度をしている
のだと小十郎は思った。薄暗いキッチンのなかで隣家から漏れてくるひかりは殊更にぬるまったく見えた。
朝食の仕度を終えて、隅々まで熱が行き渡ったリビングにそれを揃えてから二階に上がり、三つ並んだ部屋を順番に
ノックしていく。すべてノックし終えてから腕を組んで待っていると、右二つのドアがかちゃかちゃと次いで開いた。
家主の伊達輝宗と、その妻の義が寝惚けた顔をのぞかせる。小十郎はおはようございますと頭を下げてから、どうぞ
朝食をとまだ半ば夢のなかに浸かっているふたりの背中をとんと押して階段へ向かわせた。
振り返り、一番左のドアに視線を合わせる。
いくら待ってもそれは開く予感さえ感じさせない。

「政宗様」

再びノックをして、呼びかける。
返事はない。小十郎は息を吐いて、それからドアを開いた。

「政宗様、朝ですぞ」
「うわっ」

ベッドの布団を引っ剥がす。
真ん中でアルマジロのように丸まっていた幼児が急に流れ込んできた冷気に声をあげた。

「おはようございます」
「こじゅうろう、もうちょっとソフトにおこせよ」
「とっくに起きてらっしゃることは解っております。いい加減ひとりで起きてください」
「おまえにおこされるからいいんじゃねぇか、ユーシー?」
「知りません。早く起きてください。そろそろパンが焼けます」
「こじゅうろう」
「如何致しました」
「ハグ、ミー」

真顔で両手を拡げた幼児の名前を伊達政宗という。
今年五歳になる伊達家のひとりっこで、ひとりっこの宿命とも言える救いようのない我が儘さが骨の髄まで染み渡っ
ているこの幼児は、住み込みの父親の秘書兼自分の世話役の小十郎に異様に懐いている。小十郎は目を細めた。腕を
組んで視線を窓に移す。三秒ほど窓にかかったレースのカーテンを眺め、視線を下の幼児に移した。政宗はまだ腕を
拡げて小十郎を見上げている。
ほう、と息を吐く。

「いい加減にしてください」

小十郎はそう言いながら政宗を抱き上げた。
政宗は思い切り顔を笑みで染めて、小十郎の太い首にしがみつく。

「あなたももう五つでしょう。赤ん坊でもあるまいに」
「いいじゃねぇか、かたいこというな」
「降ろしますよ」

すとん、とカーペットの敷き詰められた床に政宗を降ろす。
スリッパを用意してやって、ベッドサイドにかけてあったカーディガンを羽織らせる。政宗は目を擦りながらドアを
開けて出て行った。小十郎はそれを見送って、ベッドの毛布を直しながら顔をちらりと歪める。
産まれたときから知っているものだから、小十郎はあの五歳児に蜂蜜と砂糖を混ぜ込んだ生クリームでコーティング
されたショートケーキのように甘い。厳しくしようと思いながら、あの釣り上がった目で見上げられるといつの間に
か言うことを聞いている自分にうんざりする。
舌打ちをして、小十郎はすこし乱暴に布団のシワを伸ばした。
一階に降りると既に両親ふたりは食事を終えていて、政宗だけがリビングでひとり椅子に坐っていた。政宗は小十郎
が来るまで絶対に食事に手を付けない。
小十郎が椅子に着くと、政宗はひょいと顔を上げて手を合わせ、

「いただきます」

と皿に載ったパンに手を伸ばした。
小十郎はそれを見る度、やっぱり明日も自分はこのこどもを甘やかすだろうとうんざりと確信する。
輝宗も義も大手の旅行会社の社長と副社長という地位の為にひどく忙しく、ほとんど息子と触れ合う機会を持たない。
政宗もそれを解っていて、決して家族のなかになにか冷えたものがあるというわけではない。問題なのはそれを昔か
ら見ていた小十郎が、必要以上に政宗に対する庇護欲を持ってしまったことくらいで、特に他に問題はない。朝食を
終えると小十郎はスーツを着てコートをはおり、政宗は制服に着替えて幼稚園へ行く準備をする。
輝宗と義を見送ってから、小十郎は政宗を幼稚園バスの待合い場所に連れて行く為に玄関のドアを開いた。

「おはようございまする、まさむねどのっ」

正面から大音量が飛んでくる。
政宗は弾かれたように履きかけのスニーカーを引っかけたままに駆け出す。小十郎は政宗の背中に転ばないようにと
声をかけてからドアを閉め鍵をかけた。旦那車気をつけて、とおなじような声が向かい側から聞こえた。
顔を上げると、向かいの家から出てきた男とひたりと目が合う。

「あ、おはようございます」

へらりとその目が崩れる。
小十郎はひとつ会釈をして、政宗へ視線を移した。
政宗は向かいの家に住んでいる同じクラスの真田幸村と会って早々じゃれ合っていた。スニーカーは脱げかけている。
小十郎は政宗の脇をひょいと持ち上げて、一旦幸村から引き離した。政宗が呻く。

「なにすんだ、こじゅうろうっ」
「靴が脱げております。不格好ですぞ」
「マジか。そりゃいけねえ」

クールが信条の政宗は慌てて脱げかけた靴を直し始めた。
幸村はそれを見てまさむねどのなさけないでござる、と言った。

「ぶしのいちにちはあさからきまるのでござる」
「アァ?てめえ、さなだゆきむら、じょうとうじゃねえか」
「それがしはくつひもをほどいたりしないでござるよ」
「あ、そお。そこのお坊ちゃん、ボタン掛け違えてるのは気付いてましたか」
「ハッ!ざまあねえなっ」
「なんとっ、さすけひどいでござる。ちゃんといえをでるまえにいうでござるっ」
「いやぁ、気付くかと思ったンですがね」

さすけ、と呼ばれた男は笑いながらしゃがみ込む。
ダッフルコートの下から手を突っ込んで、そこで制服を直そうとしているらしい。くすぐったいのか幸村がふるふる
震える。「さすけ」はそれを笑いながら眺めて、最後に完了、と手を引き抜いた。

「さ、これで大丈夫。完璧。旦那ちょう格好いいぜ」
「まことかっ」
「まことまことぉ」
「うむっ」

幸村はにこりと笑って、すこし前のほうに居た政宗の元に駆けだした。
「さすけ」はあんまり走るなよ、と笑いながら声をかけてから、餓鬼は元気だねえと小十郎に向かって言った。

「風の子、っての。ありゃほんとですね」
「まァ、そうだろうな」
「特にまあ、うちのはお宅の坊ちゃんのことになると風どころか嵐ですけどね」
「あァ」

首を竦めてそう笑う「さすけ」に、小十郎もちらりと笑みを浮かべる。
こっちもだと言うと、ああやっぱりと「さすけ」は笑う。ひどく嬉しそうに、旦那も良い友達を持てて良かったよと
言う。小十郎は頷いてから、交差点に飛び出そうとしている政宗の腕を掴んで止めさせた。「さすけ」も同時に幸村
のひょろひょろと長い後ろ髪を掴んで止める。
交差点を抜けて三分程度歩いたところにある公園にバスの待合い場所はある。
「さすけ」は良く喋る男で、その間ずっと喋っている。小十郎は大抵相槌を打つだけで自分から喋ることはしないが
「さすけ」はそれでいいらしい。身長はそう高くはないが、低いわけでもない。髪と目がポインセチアのように赤い。
どうでもいいことをひどく楽しそうに喋るその声は、特徴的に低く底辺で粘着いている。小十郎よりひとつかふたつ
年下かもしれない。あるいは同い年かもしれないし、ひょっとすると年上ということもありえる。

要するに小十郎は「さすけ」のことを何も知らない。

名字も知らなければ、「さすけ」がどういう字なのかも知らない。
どうして知らないかと言えばそれは結局のところ「知る必要が無いから」というところに帰着する。「さすけ」と小
十郎が会う機会があるのは幼稚園バスの送り迎えのときだけで、他には一切無い。一日に合計して十分程度の時間を
一緒に過ごす為には、人間の固有名詞は特に必要とされない。すくなくとも小十郎にとっては必要ない。
ただときおり、ふと疑問に思うことはある。

「もうすぐクリスマスですね」

と「さすけ」が言う。
そうですねと小十郎は返した。

「まだツリー出してねえんだよなあ。あれって出すと邪魔でさ、なかなか出す気になれない」
「まァ確かにな」
「しっかし旦那が煩くてね」

やれやれ、と首を振る。
どこにあったかねぇと言う。
小十郎はそれを眺めながら、ふと思う。

―――――――こいつ、何時から向かいの家に居た?

どうも思い出せない。
昨日は居ただろう。一昨日もきっと居たのだと思う。去年はどうだろう。その先になるとまったくはっきりしない。
居た記憶も無いが、居なかった記憶も無い。「さすけ」はずっと幸村と一緒に居たという根拠のない記憶はある。た
だ良く考えてみれば幸村と「さすけ」がそもそもどういった関係なのかも小十郎は知らない。親子や兄弟ではないこ
とは確かだ。幸村は父や兄を呼び捨てにするようなこどもではない。
小十郎は「さすけ」を見ながらときおり思う。
こいつは、誰だ。

「お、バスだ」

「さすけ」が言った。
小十郎は首を回して道路の先を見る。カラフルなバスがこちらに向かっていた。
政宗と幸村がそれに乗り込んでいく。大抵はいつも、小十郎が「さすけ」に対してなにかしらのことを考えようとす
るとあの色の洪水のようなバスに邪魔される。小十郎も特に考えたいというわけでもないので、それで考えるのを止
めてしまう。振り出しに戻る。毎朝。
バスは排気ガスを巻き上げて発車した。




















それがお決まりの朝だ。
そしてその日は、すこしそれとは違うコースを辿ることになった。

「片倉さん」

バスが発進した後、家に戻る道すがら「さすけ」は小十郎に声をかけた。

「この後、お暇あったりしますか」
「暇」
「そう」

へらりと「さすけ」は笑う。
小十郎はすこし考えてから、無いことはない、と言った。
今日は日曜保育で、仕事は休みだ。ただ午後からは輝宗に付き添って取引先に行かなければいけない予定があるので
開いているのは午前中いっぱいになる。そう言うと「さすけ」は手を振った。

「そんなにお時間は取らせませんよ。そうだね、精々一時間かそこらだ」
「なら構わんが」
「そりゃいいや」

お茶しませんか、と「さすけ」は言う。

「一遍ね、旦那の友達の保護者さんとおはなししたくッてさ。
 美味しいケーキもあるし、もし片倉さんさえ良かったら俺の家でちょっとおしゃべりに付き合ってくださいな」

小十郎はすこし考えた。
なるほど、と思った。小十郎も幸村の話に興味がある。家で政宗のことをどう話しているかを聞けるのは悪くない。
お邪魔でなければと小十郎は言った。「さすけ」は嬉しそうに丸い目を細める。良かった、と言う。何が“良かった”
のか小十郎には良く解らないけれども、とにかく「さすけ」は嬉しそうだった。
幸村の家は一言で言うとひどくアンバランスな家だった。
やたらと色が多く、そしてそれを一切整合をつけようという気配が感じられない。

「お坊ちゃんは赤がすきで、父親のほうが緑で母親は白がすきらしいんだよね」
「あァ、成る程」
「目に痛い家でしょ。ま、御勘弁」

「さすけ」は笑いながらテーブルにコーヒーとケーキを置いた。
小十郎はすこし首を傾げる。皿に乗ったケーキは、ドーム型をしたベージュのムースのようなものだった。その上に
キャラメルソースがかかっている。あまり見覚えがない。なんという種類だろうと考えていると、テーブルを挟んで
向かい側のソファに座った「さすけ」が首を傾げながらにいと笑う。

「それ、食べるの実は片倉さんが最初」
「は」
「試作品なんだ」
「試作品」
「そう、俺様、実はケーキ屋さんなンですよ」

へらりと笑って、まあどうぞと手を差し出す。
小十郎はすこし考えてから皿に手を伸ばして、一口それを口に運んだ。ムースはコーヒーのものだったらしく、舌に
乗った瞬間にしゅうと溶けて液状になる。苦みのあるキャラメルソースの味がそれに続いて、中央のふわふわとした
チョコレェトのスポンジの甘さとキャラメルでコーティングされたナッツの甘さが最後に残る。
小十郎は皿を置いてコーヒーを飲み、

「美味いな」

と言った。
「さすけ」は笑う。

「そりゃ良かった。じゃあクリスマス合わせの新作に採用しましょうかね」
「良いんじゃないか。世辞抜きで美味い」

小十郎はもともと甘いものはすきなほうだ。
それも甘さ控えめだとか微糖だとか、そういう生半可な甘さよりはとろりとこびりつくような粘着質な甘さがすきだ。
このケーキはその小十郎の好みにひどく合っていた。
「さすけ」は目を細め、ふふん、と鼻を鳴らして笑う。
実はさ、と言う。 
                  ・・・・
「片倉さんはこういうのすきだって、俺解ってたンだよね」

首を傾け、ほおづえを突く。
コーヒーの入ったマグカップをこん、と爪で弾く。
小十郎はちらりと眉を寄せた。「さすけ」の言っていることは良く―――――――ちっとも解らない。「さすけ」は
笑みを顔に貼り付けたまま小十郎を眺めて、それからてのひらを拡げて見せた。
そしてまずひとつ、と言う。

「あんたは甘いものがすき。しかもしッつこいのがね。
 でもコーヒーはブラックって決めてる。紅茶はダージリン派。洋菓子よりは和菓子がすきで、それは食事も一緒。
 酒は相当飲めるけどすきって訳じゃない。29歳独身、最後に付き合ってた女とは二ヶ月前に別れたけどセックス
 が出来る女は十人は居る。仕事命で坊ちゃん命、趣味は読書に土いじり―――――――おおっと」

指が無くなっちゃった。
両手を握った形にして、首を竦める。
小十郎は呆気に取られて、言葉を挟むことも出来ない。
「さすけ」はそれがひどくおかしいらしく、くつくつと両手を“ぐう”の形にしたまま笑って体を震わせる。それを
見ながら小十郎は不意に、そういえばそもそもこの男は自分の名前すら知らない筈であることを思い出した。


“片倉さん”―――――――まずそこから、おかしい。


小十郎はマグカップをテーブルに置いた。
かたん、と音が鳴る。「さすけ」はそれを見て、へらりと笑った。

「まあまあ、落ち着きなさいな」

毒は入ってないよ。
肩を右だけひょいと上げ、握っていた拳をぱらぱらと開く。
小十郎は「さすけ」を睨み付けたけれども、「さすけ」のほうはそれを気にしたふうもなく、そういえば自己紹介と
かしてないよねえと開いたてのひらをぱんと叩いた。
足を組んで、両手を重ねてほおづえを突く。
そうして「さすけ」はにいと笑い、

「俺の名前は猿飛佐助。
 27歳独身、甘いものは基本的に苦手だけど、コーヒーはどっちかって言うとカフェラテがすきかな。紅茶はアー
 ルグレイに限りますねえ、あとは和菓子はあんまり得意じゃないね。
 彼女は残念ながら募集中。趣味は読書とバイク。それから」

手を伸ばして、小十郎がさっきテーブルに置いたマグカップを持ち上げる。
それをくるくると回しながら「さすけ」―――――――佐助は、特技が一個、と言った。
持ち物に触ると、

「その相手の思考回路が読める」

いわゆるエスパーってやつですかね、と佐助は言った。
マグカップを再びテーブルに置いて、足を組み直す。黙り込んだ小十郎をひどくたのしげな顔で頭の天辺から組んだ
手まで眺めて、そうだ忘れてた、と態とらしく目を丸くする。
小十郎は思い切り顔を歪めて思わず身を乗り出した。

「ここではお手伝いさんをやらせてもらってンですよ、ま、ケーキ屋と兼業だね」
「―――――――てめェ」
「ああ、それと」
「何の茶番だ、これは」
「まあまあ」

手を突き出して、佐助は宥めるような仕草をする。
もうちょっと聞いてよと言うので小十郎は一旦乗りだした身をソファに押し込めた。佐助はそれを見て満足げにひと
つ頷いて、三本指を突き出す。俺は職業が三つあってね、と言う。
ケーキ屋と、ハウスキーパーと、もうひとつ。
佐助は三本立てた指を一本にして、壁を指さした。小十郎はそれに従って視線を移す。壁にはカレンダーがかかって
いた。当然それは12月用のイラストが載っていた。ツリーとこどもたちと、たくさんのプレゼント。
あれだよと佐助は言う。





「実は俺様、サンタクロースなんだよね」





カレンダーの中央には、馴染みのある赤い服にしろい髭の老人が居る。
小十郎はしばらくそれを凝視して、それから視線を佐助に戻した。佐助はそれにへらりと笑みを返す。小十郎は眉を
寄せた。また視線をカレンダーに移す。赤い服。しろい髭。サンタクロース。
佐助を見た。
サンタクロース。

「サンタクロース?」
「サンタクロース」

佐助は自分を指さしてそう言う。
小十郎はしばらく動きを止めて黙り込んだ。
それからソファに沈んだまま天井を見上げてもう一度「サンタクロース」とつぶやいたらやっぱり佐助も「サンタクロ
ース」と返してきたので、益々訳が分からなくなってしまった。

















       
 



クリスマスまでに終わってください(願)佐助サンタクロース話です。
タイトルはもちろん某女性アーティスト曲のパクリですが 要するにあそこまではいけないということです。


空天
2007/12/19

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