片倉小十郎はどさり、と肩に背負っていたものをソファへ落とした。 特になんの配慮も施されずにソファへと落下させられたもの、有り体に言えば猿飛佐助は顔をクッションに激突させて、ぶ、と 潰れたカエルのような音を鼻から出した。小十郎はそれに振り向きもせずにキッチンへ向かう。 冷蔵庫を開いてミネラルウォーターのペットボトルを取り出し、グラスに注いだ。それを持ってリビングへ戻ると、部屋に入る まではへらへらと赤い顔で笑っていた酔っぱらいが、口元を手で押さえて顔を青くしている。 小十郎は軽蔑しきった目で目の前の同僚を見下ろした。 「阿呆、弱いくせに馬鹿飲みしやがって」 「・・・・じゃ、じゃあ止めろよ・・・ぅえ」 恨めしげに佐助は小十郎を見上げる。 小十郎は相変わらずつめたい目で、黙ってグラスをテーブルに置く。 「なんで其処まで俺が面倒みてやらねェといけねェんだ。死ね。今すぐ死ね」 「つめてぇー・・・。一緒にスプラッシュマウンテン乗った仲じゃん・・・・」 「遠足の下見でな」 小十郎はじぶんの分のグラスをぐい、と傾ける。 佐助はへろへろと手をテーブルへ伸ばし、だがたどり着く前にくたりとソファのうえに沈んだ。 上等な言い逃れ last night 片倉小十郎と猿飛佐助はおなじ幼稚園で保育士をしている。 日々本来の仕事以外の雑務に追われる日々に若さのみで対応しているという、かなりハードな日常を送っているふたりであった けれど、その日は次の遠足の目的地への下見、という比較的楽な仕事をまわされていた。小十郎にしてみれば男ふたりで遊園地 だろうとなんだろうと、仕事なのだから特に気にすることはないと思うのだが、どうやら同行者は違うらしく、 「男ふたりで遊園地とかまじ、ない!」 と行く前からうるさい。 もちろん行った後もうるさかった。 なので小十郎は黙らせるために酒に誘ったのだが、ふだんは飄々としているこの同僚はどうやら絡み上戸だったらしく、そのう っとうしさは酒により倍増する。しかも終電が過ぎていることに気づきつつそれを逃し、ちゃっかり小十郎のマンションに転が りこもうとするその図々しさに小十郎は思わず路上へこの酔っぱらいを放置してやりたい衝動におそわれた。さすがに一月の寒 空に放置したら生命の危険があるのでこらえたが。 そしていま、しかたなく自宅に運び込んだ佐助は今にも死にそうな顔色でソファに沈んでいる。 小十郎は空になったグラスをシンクに置くために立ち上がる。 佐助はゆっくりと顔をあげてそれを見る。かたくらさん、と言う声がふるえていてひどく滑稽だな、と小十郎は思った。はっき り言って同情はしていない。そんなものする理由がない。 小十郎は淡々と佐助に応えた。 「なんだ」 「・・・・きもちわるい」 「吐くならトイレ行け」 「・・・・・・みず」 小十郎は首を傾げる。 水ならすでにテーブルのうえに置いてあるではないか。佐助は青い顔をしたまま続けた。 「・・・・・・とおい」 小十郎は今度こそあきれ果てた。 思わず目の前の赤い頭をはたく。ぐらん、と頭が揺れるのが悪かったらしく佐助はさらに顔を青くしてげろげろ言っている。吐 いたらほんとうに追い出して放置だな、と小十郎は思う。 「・・・」 「・・・ぅうー」 「はあ」 涙目でソファに埋もれている佐助を見ながら、小十郎は息を吐いた。 テーブルから佐助のぶんのグラスを持ち上げ、ソファに座る。弱々しく小十郎へ視線を寄越してくる佐助のあごを、くい、と小 十郎は上へ傾けた。 「口」 「へ」 「口、開けろ」 言われるままに開けられた佐助の唇に、グラスを押し当てる。 それを傾けた。グラスの中身がゆっくりと佐助の体内に流れ込んでいく。こくん、と二三度佐助の喉が上下した。小十郎はそれ を確認して、グラスを離す。入りきらなかった水が幾筋か佐助の唇のはしから流れ出した。 落ち着いたか、と問う。佐助はそれに、弱々しくだが頷いた。 「・・・悪ぃ。今度、なんかで埋め合わせするわー・・・」 佐助のことばに、小十郎はちいさく笑った。 おごれよ、と言えば佐助もくつくつと笑う。それからありがとう、と言いながら小十郎の肩にもたれかかってきた。小十郎はそ れをうっとうしげに押し返そうとしたが、先ほどまでの佐助を見ているとなかなかそうも出来ないので黙ってちくちくとほおに 刺さる髪の毛の感触に耐える。 佐助はまだ笑いながら、小十郎の肩に額をぐりぐりと擦りつける。 「かたーい」 「・・・おまえ、酔い醒めてねェのか」 「あー俺ねえ、一回酔うと、気持ち悪くなって、それからまた酔うの」 けらけらと佐助は笑う。 小十郎は眉をひそめた。なんて迷惑な酔い方だ。 すこしだけ残っていた同情心も露と消え、小十郎は佐助を押し返そうと頭に手をかける。と、がばりと佐助の顔があげられた。 至近距離で赤く丸い目が小十郎をのぞき込んでいる。 佐助はじい、と小十郎を見ながら言った。 「片倉さんて」 「・・・・なんだ」 「いい男だよね」 そう言って、へらりと佐助は笑う。 小十郎は目を細めてそれはどうも、と言う。天井を仰いだ。すごいうっとうしいんだがどうすればいいんだろう。佐助はそんな 同僚の渋面にも気づかず、へらへらと笑いながらずるずると小十郎の体を滑り落ち、膝に顔を埋める。 そしてけらけらと笑う。 「あったけー」 「・・・おい」 「なあにぃ」 「何処に顔埋めてやがんだ、阿呆」 佐助が首を傾げる。 小十郎はそれにまた眉を寄せた。佐助は小十郎のちょうど股間のあたりに額を置いていて、笑うたびにそれがジーンズのチャッ クのあたりを擦ってきてむずむずする。しかも首を傾げたものだから、佐助の酔ってあついほおの体温がつたわってきて更にあ まりよろしくない事態になってきている。 小十郎は佐助の襟元を掴み上げ、ソファの向こう側に放ろうとした。 が、掴み上げられた佐助は逆に小十郎のタートルネックを掴んでぐい、と引く。 「っ」 ぼすん、と小十郎はそのまま体のバランスを崩す。 体の下では佐助がにやにやと笑っている。すぐに体を起こそうとしたが、強く首もとを掴まれているので動かせない。睨み付け てみるが、佐助は気にした様子もなく、腕を小十郎の首にまきつけ、 「片倉さんちかいー」 と楽しげに笑う。 「・・・離せ、猿飛。今なら明日一発殴るので許してやってもいい」 「えー殴られるのやなんですけどー」 「じゃあ蹴る。とにかく今離さねェと、本気でこの家から放り出すぜ」 「寒いじゃん」 「・・・・・・・・・・・だから離せっつってんだろうが、あぁ?」 脅してみる。 佐助はつまらなそうに唇をとがらせ、つまんねーの、と言った。 諦めたか、と小十郎はすこし気を緩める。佐助はにや、と笑った。ぐい、と小十郎の首を思い切り引き寄せる。 ちゅ、と肌が触れあう音がした。 「・・・・・・・・!?」 小十郎は目を見開く。 目の前には目を閉じた佐助のアップが広がっていた。あまりのことに動きを止めた小十郎をいいことに、佐助は舌を潜り込ませ て小十郎の歯列をなぞる。ひく、と小十郎の肩が揺れるのが解って、佐助は楽しげに目を上弦に歪ませる。 ほうけた時間がどれほどだったか小十郎にはわからない。くちゅん、と水音がして佐助の唇が離れていったときにようやく小十 郎は、今おこなわれたことの腹立たしさに気づき、佐助の襟元を掴み上げる。 「猿飛てめェ・・・・っ」 佐助はぱちくりと目をまばたかせた。 「顔、怖いよ」 「誰が怖くさせてると思ってんだ」 「えーおれー?でもさーきもちよくなかったー?俺様、キスには自信あるんだけど」 佐助はそう言いながら、ほら、と手を伸ばして小十郎の股間をぽんぽん叩く。 小十郎は息を飲む。たしかにそこはかすかに立ち上がっていて、チャックがきつくなっている。佐助はにやにやしながら、ねー ?と笑う。それが腹立たしくて、さらに強く首元をぐらぐらと揺するが佐助はすこしも堪えない。 ぶらぶら揺すられながら、佐助は小十郎のチャックを下ろす。 「・・・わお」 そして下着のうえから性器に触れた。 「・・・っ」 小十郎は佐助の襟を離した。ぼすん、とソファに頭を落とした佐助は、天井を見ながらそのままごそごそと小十郎の股間で手を 動かす。下着の隙間から指を潜り込ませ、性器に直に触れられたとき、小十郎は思わず目を閉じた。 両手で小十郎の性器を擦りながら、佐助はちゅ、と小十郎の首に口づける。舌をそのまま上に滑らせると小十郎の体がふるえて 低いうめき声がこぼれたので、佐助はへらへらと笑う。 「・・・きもちい?」 「・・・っ、死ね、阿呆っ」 「この状況で俺様死んだら、あんたひとりで処理しないといけないじゃん」 一緒に気持ちよくなりましょ。 佐助はそう言って手の動きを速くする。耐えきれず小十郎は肘を張りながらも額をソファに埋めた。呼吸が乱れて鼻先にかかっ たかすれた声が出るのが腹立たしい。楽しそうな佐助はより腹立たしい。 「・・・っく」 「うわーちょっと、片倉さん聞こえるこの音」 「あ、ぁ?」 「くちゅくちゅいってる」 「・・・っあ、ほう、がっ」 「きもちいーくせに」 ぐ、と佐助が両手に力をいれる。 「っは、あ」 堪えていた息が小十郎の口からこぼれる。 それと一緒に佐助の手の中に小十郎は精を解放した。肘から力が抜け、そのままどさりと佐助の上におおいかぶさるかたちにな る。乱れた息を整えようと深く酸素を吸った。 佐助はそんな小十郎の背中をぽんぽんと叩き、それからその体をひょいと脇に押し寄せる。 荷物のように動かされたことに小十郎は多少の不快をおぼえたが、体から力が抜けていたので今は気にするまいと目を閉じる。 明日になって見ろ、と小十郎は思った。絶対殺してやる。 顔をソファにうずめながら悶々と翌日の完全犯罪を目論む小十郎を後目に、佐助はごそごそとテーブルの上に置いてあるじぶん の鞄を探っている。そして目的のものを見つけたらしく、にこにこしながらソファに戻った。 手にはちいさな瓶が握られている。 佐助は小十郎の足をよいしょ、と掴んだ。それからえいと体ごとひっくり返す。 突然視界が真っ暗闇から蛍光灯の白に変わったので、小十郎はまばゆさに目を閉じる。仰向けになった小十郎に、佐助はやはり 笑顔のままおおいかぶさる。 「な」 小十郎は目を開く。 だが、抗議のために口を開いたときにはすでに佐助は小十郎のジーンズを下着ごと下ろしていた。 きゅ、と音がして瓶の蓋が外される。 甘いにおいがリビングに広がった。佐助は瓶を傾け、とろりと中身を手に垂らす。小十郎は蹴ってやろうかと足を上げかけるが そうすると更にジーンズが脱げていきそうになったので動きを止めた。その間にも佐助は手の中の液体を指に絡め、小十郎のう しろへと手を伸ばしている。 「てめェ!本気で死にてェのか!!」 つい、と指が小十郎のうしろに触れた。ぬるりとした感触が気持ち悪い。身をよじるが、先ほどいいようにされた後遺症で体が 思うように動かない。怒鳴る小十郎に佐助は、まだ酔ってとろんとした目で笑う。 「まっさかー」 「何、入れてやが、るっ」 「これー?下見ん時買ったプー●んのはちみつー」 「・・・死ねっ、ほんっとに死ねっ」 「やだー」 「じゃ、離・・・っく」 小十郎の抗議の声が途中で止まる。 佐助の指が深く体内にもぐりこんできたのだ。本来排泄につかわれるべき場所の異物感が、吐き気がするほどに気色悪い。じぶ んもそれなりに飲んでいた小十郎は、こみ上げてくる嘔吐感に口を押さえた。動きが鈍くなった小十郎に、佐助はこれ幸いとす きかってに指を動かす。中の壁の部分をこすられると、ぞくりと背筋が反り返った。 「うーん、こんなもんでしょ」 うんうんと頷き、佐助はくちゅん、と指を小十郎の中から取り出す。 そしてズボンを下ろしてから、小十郎の膝の裏を抱えて持ち上げた。 「いれますよーっと」 佐助は笑う。 熱いものが後ろにあてがわれた感触に、小十郎は息を飲んだ。やめろ、とかすれた声で言う。だが佐助はおれはきもちよくなっ てないもん、と取り合わない。 くに、と先端が入り込んでくる。小十郎は目を閉じた。太くて熱いものが、ゆっくりと体を引き裂くその痛みに、声にならない 悲鳴が喉の奥で反響した。佐助も中の狭さに眉をひそめ、額に汗を浮かばせる。 「か、たくらさ、ん、狭っ」 「・・・っ、うるせっえ」 「息、吐いて、よ。これじゃ進めねーですって、ば」 佐助のことばに、小十郎は舌打ちをする。 だが辛いのは小十郎もそうなので、おとなしく息を吐いた。体から力が抜る。 佐助はすこし緩まった締め付けに、体をさらに進めて自身をすべて小十郎の中に埋め込んだ。はあ、と息を吐く。それから目の 前で短い息をしている小十郎に顔を近づけ、言ってやる。 「か、たくらさん?」 「・・・っぁ」 「すっげーきもちいーよー?」 くすくすと笑うと、小十郎の体がびくびくと揺れた。 その振動が刺激になるらしい。佐助はまた一度深く呼吸をしてから、小十郎の体をゆさゆさと揺さぶった。接合部分がはちみつ でぐちゅぐちゅと音を立てて、小十郎はいっそ耳が聞こえなければいいのにと思う。 「ねー」 きもちいい?と佐助が聞く。 小十郎は首を振る。実際きもちよさなど欠片もない。腹のなかがひっくり返るような感触がして許されるなら吐きそうだ。佐助 は腰を動かしながらも、うーんと眉を寄せる。 「こ、こは?」 「・・・っくねェよ」 「じゃ、ここー?」 「そこ、もだっ」 「えー我が儘だなあもー」 目を細めて佐助はぐい、と小十郎の体をじぶんに引き寄せる。 それに小十郎は目を見開いた。中の奥に佐助が触れたしゅんかん、ちり、と電気のようなものが体に走り抜けたような気がした。 息が出来ない。口は開いたまま、ただぱくぱくと魚のように動くだけだ。 佐助は小十郎の変化がすぐに解ったらしい。 にやりと笑って、同じ場所を何度も突く。そのたび小十郎が苦しげに呻くので、佐助は楽しくてしかたがないようだった。小十 郎のほうはそれどころではなく、ただそこを突かれるたびに佐助のものを締め付けるじぶんの中が煮えくりかえるほど腹立たし くてしかたがない。 佐助に揺さぶられているうちに、小十郎の体がソファからずり落ちそうになる。不安定な状態で中をかき回されると、いっそう その動きが脳にダイレクトに伝わってきて、その感覚に生理的な涙が出てきた。それを佐助が笑いながら舐めとった。 「もう、いく?」 ちゅ、とほおへ口付けながら佐助が聞く。 小十郎はそれにこくこくと頷いた。もういろいろ限界で、とりあえず佐助殺害計画の実行は明日にまわすことにする。覚悟して おけよという意味で、小十郎は荒い息のなか必死に佐助を睨み付けた。 「・・・さ、るとび」 「ん?な、あに?」 「て、めェっ、責任、とれ、よ」 佐助が丸い目をよりまるまると見開く。 プロポーズみたい、と佐助は笑った。そして了解、と笑ってぎりぎりまで腰を引いて、それから思い切り突いた。 くい、と小十郎は仰け反り、一声高く鳴いて果てる。 小十郎は半ば意識を失いながら、責任取れよはちょっと違ったな、と思った。 next morning |